「ご心配おかけしました」

二日後の朝、全快。
私は心配していた善逸や師範、獪岳にぺこりとお辞儀する。


「とにかく、治って良かった!」
「…馬鹿は風邪引かねえって言うのにな」
「獪岳!」


私が軽く怒ると、んべっと舌を出して挑発してくる。師範はそれを見て苦笑してよさんか、と優しい声で言う。


「もう無理すんなよ」
「うん、ごめんね。それから、ありがとう」


善逸はふいと照れ臭そうに視線を逸らす。
善逸はほとんど付きっきりで私の看病をしてくれた。
一昨日なんて学校を休んでまで私のことを見ていてくれた。申し訳ない思いでいっぱいになる。
ちなみに昨日は、もう熱は下がっていたけど念のために休まされた。


「今日からまた夜ご飯も作れます!期待しててね」
「無理すんなっつーの。俺も手伝うから!」
「大丈夫だよ、本当に」
「駄目。手伝う。今日も学校で絶対無理すんなよな!!」


びしっ!と私を指差してそう言う善逸。
それを獪岳はニヤニヤと笑いながら見ていて、気が付いた善逸が何だよッ!?と顔を赤くしながら獪岳に食ってかかる。獪岳は別にーと視線を逸らしていた。







「なまえ!大丈夫なの?」
「カナヲ!心配かけてごめんね。もう大丈夫!」
「良かった…」

風紀委員の身嗜みチェックをしていると、登校してきたカナヲが私を見つけて駆け寄ってきてくれた。
カナヲは私の手を取り、もう無茶しないで…と笑いかけてくれた。
ありがとう、と私も微笑む。


「…ほら、カナヲ遅刻しますよ。なまえ、風邪が治って何よりです。今日はまだ安静にしていた方がいいですよ」
「しのぶさん!おはようございます、はい、まだ無理はしないようにします」
「はい。それではまた」
「また、教室でね。なまえ」
「後でね」


カナヲとしのぶさんに手を振る。
すると今度は伊之助がやって来て、私の顔を端正な顔立ちでまじまじと見つめて来た。


「い、伊之助?どうかした?」
「お前治ったんだな?これやる」
「…あ、ありがとう」


って何これ…どんぐり?
むん!とドヤ顔した伊之助が褒めて欲しそうにしている。
もしかして伊之助の大事などんぐりなのかな…。


「すっ、すごいツヤツヤなどんぐりだね!それに大きい!」
「そうだろう!特別にやるよ苺大福!お前は俺の子分だからな!」
「苺大福じゃなくてなまえ、ね。ありがとう伊之助」
「ふんっ!」


いつものように伊之助のシャツの前ボタンを止めてあげて、彼と別れる。
次は炭治郎がやって来た。
炭治郎とは朝行きがけに軽く竈門ベーカリーの前で挨拶を交わしたから、軽く話す。
治って良かったと笑ってくれた。


知らないうちに家族だけじゃなくて皆に心配かけてしまっていたんだなあと申し訳なく思う一方で、私のことを心配してくれる人がこんなにもたくさんいるということに不謹慎にも少し嬉しく思ってしまう。







「重くない?私も持つよ…」
「へ、平気…」

今日は学校で、色んな人から色んなものを貰った。
私の好きなはちみつレモンの飲み物やのど飴、チョコレート…休んでいた分のノートやら何やらまあとにかく色々。
貰ったものは全て紙袋に入れてまとめている。


それに加えて夜ご飯の買い出しもしたのでたくさんの荷物がある。
善逸は何故かほとんどの物を一人で持っている。
自分で持てると言ったけれど善逸は譲らなかった。

「善逸…帰ったら」
「ん」
「一緒にご飯作ってくれる?」
「…うん」

善逸は少し拗ねた顔をしながら頷く。
私はそんな善逸に気付かない振りをしながら横を歩く。

善逸が私に優しくしてくれるのが嬉しくて、少し浮かれてしまう。
風邪を引いてからは特に優しい。
もちろん昔からいつだって善逸は優しかった。
けれど、それは誰にでもだった。
今回のように私ばかり構ってくれることは中々ない。

嬉しいなあ。

こんな関係がずっと続けば良い。


家族であり、友達であり、大切な人。
それ以上は望まない。


私に善逸は勿体なさすぎる。
そもそも釣り合わない。
善逸にはもっと彼を幸せにしてくれる人と一緒になって欲しいな。

…彼が他の人と一緒になることに私が耐えられるかどうかは別として。



08 いつも通りに
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