朝からなまえの体調が良くないことに気付いていた。
聞こえてくる息遣いが少し苦しそうだったし、何をするにもいつもより少し億劫そうに見える。
爺ちゃんも獪岳も気付いてないようだったが、俺はすぐに分かった。


休ませるか少し迷ったが、普段通りを貫くなまえを見て無駄だと気付いた。
だからいつもよりなまえの音を注意深く聴いて用心することにした。


風邪が悪化していつ早退になっても分かるようになまえの様子をクラスまで何度か見に行ったり。

なまえは3時間目に体育があったらしく、体育中に倒れたと聞いて俺は慌てて保健室に向かった。

青白い顔でふうふうと息苦しそうにベッドで寝ているなまえを見て、今朝の自分の考えが浅はかだったことを思い知る。
ちゃんと朝休ませれば良かったと後悔した。


なまえと一緒に帰ると、途中で前から歩いて来た人にぶつかりそうになっているなまえの腕を咄嗟に引くと、その体が簡単に俺の腕の中に収まった。


「〜っ!?」


ぼふんと音がしそうなほど俺の体温が急激に上がった。
ふう、ふうという荒い息遣いが俺の胸元にかかってこそばゆい。


「ごめん、ぜんいつ…」


熱のせいか潤んだ瞳でその体勢のまま見上げてくるなまえ。
うわ馬鹿、俺だから良かったもののそれはアレだぞ!心臓に悪い!!

思わずパッと身体を引き離すと、常に平坦な音をさせてるなまえから僅かに寂しいという感情の音をさせたのに気付いてしまって、俺は「〜〜っもう!」と心の中で叫ぶ。

少し乱雑になまえの手を取ると、なまえの心臓の音が跳ねた。


「ぜん、いつ?」
「危ないから…家着くまで、な」


自分に言い聞かせるように言って。僅かに手に力を込めるとなまえも答えるように手に力を込める。


熱いなまえの手。


俺の身体も同じくらい熱くなってしまって。


あーもう、好きだよ。
言ってしまいたい気持ちをぐっと抑える。

ぶるぶると首を振る。
違う。俺となまえは家族だ。
家族だから好きなんだ、そうだ。


俺となまえじゃ釣り合わないしな…。


そうこうしているうちにすぐに家に着いた。
玄関の戸を開けて、家に入るとどちらからともなく手を離す。
最後お互いの人差し指が名残惜しいとばかりに触れて、少し切ない気持ちになった。







落ち着け、なまえは風邪なんだ。
弱ってるなまえが可愛く思えてしょうがない。

ごしごしとなまえが食べ終えた土鍋と小皿とれんげを洗いながら落ち着けー落ち着けーと何度も自分に言い聞かせる。


「何であんな可愛いんだよッ!?」


がしゃん!と乱暴に水切りカゴに洗った土鍋を置く。
帰りだって「我妻、みょうじさんと早退…?何で?」っていう男子達の恨めしい視線と声が聞こえて来たじゃないか。
あーイライラする。


「…はあ?」
「は?」


急に呆れたような声が聞こえて来て、慌てて振り返る。
獪岳が怪訝な顔して立っていた。
ゲッ、と思わず声を漏らす。


「何でお前家にいんだよ。学校どうした」
「なまえが熱出して一緒に早退してきたの!何か文句ある?」
「熱ぅ?…はぁ、やっぱりな」


何だよ、気付いてたのかよこいつも。


「なんか朝からだるそーだったからな」
「…。何で獪岳は家にいんの?」
「学校終わって一旦帰ってきたんだよ。サークルに必要なもん忘れたからな、んじゃ風邪引いた馬鹿にヨロシク…ああ、馬鹿は風邪引かないんだったっけな」


ニヤニヤと俺を見下ろす獪岳。
ほんっとムカつくこいつ!


「そんな可愛いんだったらちゃんと見ててやれよ」


完全に冷やかしの生暖かい目で俺を見て嘲笑う。
聞いてやがったこいつ!!!

俺は顔を真っ赤にしながら獪岳のケツに一発蹴りを入れて早く行け阿呆!!と怒鳴った。



07 心配させるな
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -