隣を歩く善逸が、何度も何度も私をちらと見る。
私自身歩いているのがやっとで、他のことに構っている余裕がない。
人にぶつかりそうになって、善逸が私の腕を引くと足元がふらついて善逸の胸板に私の頬がぶつかって、抱きしめられているような感じになってしまっていた。
風邪のせいで理解するのが大分遅れて、私の心臓はどくんどくんと音を立てる。
あ、善逸に聞かれちゃう。…なんて思ってもどうすることも出来ないのが歯痒い。
「…大丈夫?」
「…、うん」
パッと善逸は私から離れる。
少し寂しく思いながらまた歩き出す。
善逸は私の顔を見て複雑な顔をしながらふいに手を握った。
「ぜん、いつ?」
「危ないから…家着くまで、な」
言い聞かせるようにそう言って、ほんの僅かに手に力を込める。
驚いていた私も同じように手をぎゅっと握って歩き出す。
何だか、何だかなぁ…。
今の私は、少し浮かれてる。
馬鹿みたいだけど、善逸が私に優しくしてくれる事がとても嬉しい。
▽
家に着くとパジャマに着替えてベッドに入った。
善逸は氷枕を持ってきてくれて、私の頭の下に置いてくれた。
「お昼まだだけど、弁当食べれるか?」
今朝私が作ったお弁当の入った弁当袋を私に掲げて見せるけど、生憎食欲がないので首を横に振った。
「…薬飲まなきゃいけないから少しでも食べて欲しいんだけど…じゃあお粥作るから、そっちのが食べやすいよな」
「うー…うん…」
お粥もあんまり食べたくないんだけどなあ、と思いながら目を瞑る。
善逸は私の部屋から出て行った。
恐らくお粥を作りに行ったのだろう。
迷惑かけてごめんね、善逸。
うとうととして来て、すぐに眠りについた。
▽
「なまえ」
善逸の静かな声が聞こえて、重たい目蓋をこじ開ける。
善逸が小さな土鍋と小皿とれんげの乗ったお盆を持って私を見つめていた。
「寝てるとこごめん。でも食べて薬飲まないと駄目だから」
「ん、ありがと…」
重たい身体を起こすと、私の膝の上にお盆を置いて、小さな土鍋の蓋を開けた。
中からはほんわりほかほかと湯気が湧き上がって、お出汁のいい香りがした。
卵とネギの入った卵粥だ。
食欲はないけれど、美味しそうだと思った。
善逸が土鍋から小皿にお粥を移してくれた。
そしてふぅふぅとして、ほらあーんと私にれんげを近付ける。
「ぜ、善逸…自分で食べれるよ…っ?」
「いーから、今日くらいは」
「ん、むう…あーん…」
ぱく、と善逸の持っているお粥に口をつける。
味覚が鈍くなっているようであまり味がわからなかったけれど、善逸は器用なので料理が下手ではない。だからきっと美味しいんだろうと思った。
「美味しいよ、善逸」
「ほんとかよ」
善逸が少し笑った。
私も笑って、また差し出してくるお粥をぱくついた。
しばらくそれを繰り返して、私はお腹いっぱいになったので少し残っていて申し訳なかったが食べれないというと善逸が水と薬を私に渡す。
「薬、飲んで寝とけよ」
「うん」
善逸が食べ終わった土鍋の乗ったお盆を持って、私の部屋から出て行く。
その背中に小さくありがとう、と言うと善逸は振り向きもせずうん、と呟いた。
そして私は貰った薬を水で流し込んで再び布団に身体を沈めた。
熱のせいか、謎の浮遊感に身を包まれながら眠りについた。
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06 浮かされて