朝起きると頭がずんと重く痛みを伴い、身体も少し怠い。
ベッドから起き上がるだけなのに体が少しもたついた。


…まさか。


ベッドの淵に座ってベッド脇の棚の中から体温計を取り出し、熱を測ると37度だった。
微熱。学校に行けないことはない。

それに今日は日直だ。
私が休むと困るだろう。

布団から出て、顔を洗って歯を磨き身嗜みを整えると制服に着替えて台所へ向かった。
エプロンを身につけて、朝ご飯の支度とお弁当の準備。


しばらくしてやって来た師範と獪岳にご飯を出す。
師範はご飯派、善逸や獪岳そして私はパン派なのだ。

一番最後になって寝癖をつけてあくびをしながらやってきた善逸にもご飯を出してようやく自分も朝食にありつく。
普段ならなんて事のない行動なのに、動きの一つ一つが怠く重たい。

しかしそんな素振りを見せれば休めと言われてしまうので私は極力いつも通りを心がけてあまり進まない朝食に手をつけた。


「なまえ…」


いつの間にか食べる手を止めていた善逸が私をじっと見て名前を呼ぶ。
どきとしながら私は善逸を見つめ返した。
善逸はため息混じりに「何でもない」と言って竈門ベーカリーで買った食パンにかじりついた。

多分バレた。
でも気づかないふりをしてくれたのだろう。
有り難く私も素知らぬ顔で朝食をとって片付けをした。


「獪岳、今日夕飯は?」
「いらねえ。今日もバイトだ」
「頑張るね」
「まあな」


興味なさそうにスマホをいじる獪岳に、師範は寂しそうな顔をしていた。


「そろそろ時間だね、行こうか」
「ああ、じゃあ爺ちゃん行ってくるよ」


玄関に向かうとその後ろを師範がついてきてそこまでお見送りしてくれる。
しばらく歩いて師範の姿が見えなくなったところでふうと小さくため息をついた。
かなり小さいため息だったのに耳の良い善逸には聞こえたらしく眉を顰めたがやはり何も言わなかった。



竈門ベーカリーの前を通りがかり、いつも通り朝の挨拶を済ませると私たちは風紀委員の仕事をするために急いで電車に乗って学校へ向かう。

今日も変わらない一日だ。







何とか、3時間目まで耐えた。
こんな時に限って4時間目に体育があるものだ。
種目はバレーボール。
女子がチームに別れて試合をする。
と言っても授業のバレーボールなんてお遊びのような物だ。運動神経があまり良くない子も居ればバレーボールを全く知らない子もいるから。

それでも運動神経が良いカナヲや私は重宝され、別々のチームにさせられチームの要となる。


そして、試合が始まってしばらく。


私の真上にボールが飛んできた。
高さからトスをしようと顔を上げると、ボールがぼやりと歪んで二つ三つに見えた。

…と思った瞬間目の前が暗くなって行き…暗転。



私の意識は一瞬途絶えた。







次に気が付いた時には真っ白な天井が見えてきた。
それから心配そうに私を覗き込む善逸の顔も。


「…おはよ、善逸」
「おはよじゃ、ねぇよ。案の定じゃん」
「ごめん」


朝から具合が悪いことに気が付いていたらしい善逸は決まりが悪そうに眉を顰めている。
私が起きた事に気付いた保健師の珠世先生がやって来て、風邪だと病状を告げると今日は早退してゆっくり休んでねと優しく私の頭を撫でた。


「… なまえ、大丈夫…?」


カナヲが控えめに仕切りのカーテンから顔を出す。
心配そうな顔をしていた。
バレーボール中にネットを挟んで目の前で急に倒れたのでカナヲは半ばパニックになってしまったそうだ。申し訳ない。


「カナヲ、大丈夫…ありがとね、それより移るといけないから…」
「そんなこと、平気。なまえの方が心配」
「今度はカナヲが倒れたりしたら私も悲しくなるしカナエ先生やしのぶさんが心配するよ」
「う…」


はいはい、と善逸が私の制服を渡して来て体操着のままだった事に気付く。


「カナヲ、なまえは俺が連れて帰るから安心して。看病もする」
「本当…?良かった」
「善逸、まだ授業残ってるのに…」
「朝から一応想定してたから、ノートは炭治郎が取ってくれるから大丈夫。それより、そのまま帰んの?着替えるなら出てくけど」
「あ…一応、着替える…」


そう、と善逸は呟いてカーテンの外へ出て仕切りを閉めた。
カナヲは手伝おうか?と私の着替えを手伝おうとしてくれた。
優しいなぁ、カナヲは。
でも着替え手伝ってもらうのはさすがに恥ずかしいので丁重に断ってずきんずきんぼんやりする頭と気怠い身体で立ち上がって善逸を待たせないようになるべく早く着替えた。

カーテンの仕切りを開けて、善逸を見つける。
善逸は私の鞄も持っていて帰るぞと小さく呟いて珠世先生にお辞儀してから保健室を後にした。
私も同じようにお辞儀すると珠世先生はにこりと優しく笑ってお大事に、と言ってくれた。


カナヲは心配そうに玄関までついてきてお見送りをしてくれた。
早く良くなってね、と不安気に私の手を優しく包み込んでくれる手は、私が熱いからなのかひんやりと、冷たく心地が良かった。
ありがとうとお礼を言って、カナヲの視線を背に受けながら善逸と帰宅する。



05 迷惑かけて
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