少し重たいガラス張りのドアを開けると、上部に付いてた鈴がちりんと鳴った。


「こんにちはー」


善逸と二人で竈門ベーカリーの中へ入ると、私たちに気付いた炭治郎のお母さんが朗らかに微笑む。


「いらっしゃい、なまえちゃんに善逸くん」
「善逸、食パン取ってきてくれる?」
「はいはい」


渋々といった感じでトレーとトングを手に食パンとついでにいくつかパンを選ぶ善逸。


「おばさん、禰豆子ちゃんたち帰ってきてますか?」
「さっき炭治郎が連れて帰ってきたんだけど…禰豆子、熱があるのよ。あまり近寄らない方がいいかもしれないわ」
「えっ!?」


善逸がパンの乗ったトレーを落としそうになる。


「だ、大丈夫なんですか!?禰豆子ちゃんが熱!?とんでもねぇウイルスだ!!俺が退治してやる!」
「どうやって退治するの…それより禰豆子ちゃん、心配ですね…」


ええ…と不安そうに頬に手を当てる炭治郎のお母さん。
とても綺麗で子供を六人も生んだとはとても見えない。


「なまえ、善逸来てたのか」


レジカウンターの向こう側から、ひょこりと炭治郎が顔を出した。
少し下からひょこひょこと茂くんと花子ちゃんが顔を出す。


「なまえ姉ちゃんと善逸兄ちゃん!あそぼー!」
「遊ぼう遊ぼう!」


二人が私たちに駆け寄ってくる。
そんな二人をこら!と炭治郎が叱りつける。


「禰豆子が寝てるんだ静かにしないか!」
「ごめんなさい…」
「炭治郎、禰豆子ちゃん大丈夫なのか!?」
「ああ…ただの風邪だ。今学校で流行ってるからな」


善逸が食い気味に炭治郎に本当に本当に大丈夫なのか!?何度あるんだ!?と小声で詰め寄る。しまいには俺が病院まで担いで連れて行く!!と言い出しす。


「善逸…静かに寝かせてあげようよ」
「悪いな、なまえ」


でもでも、と心配そうな顔をする善逸に少しざわつく胸を抑えながら、ね?と静かに念を押すと善逸は観念してこくりと頷いた。


「…茂くん、花子ちゃんまた今度遊ぼうね、禰豆子ちゃんが元気になったら皆で」
「うん!!」
「絶対だよ!」

二人の可愛らしい笑顔を背に、パンの代金を払って竈門ベーカリーを出た。


「禰豆子ちゃんが元気になったら、また来ようね善逸」
「…うん」


善逸は私から視線を外し気味に頷く。
そして私たちは夕食の食材を買いにスーパーへ向かった。







「いただきます」

師範、善逸、私で食卓を囲む。
今日は肉じゃがに焼き魚、サラダに味噌汁とほかほかご飯…和食にまとめてみた。
ちなみにこの家の食事はほとんど私が作っている。

「獪岳は今日も晩飯要らないのか」
「サークルと、バイトだって言ってましたよ、師範」
「んん、そうか…今の大学生は忙しいんだなあ」


少し寂しそうな師範は神妙な面持ちで味噌汁をすすった。


「彼女だよどうせ、アイツ取っ替え引っ替えしてんだよ!信じられねえあんな奴が女選り取り見取りだなんて!!」
「…善逸もモテると良いね?」
「うっっっさいわ!!」


キィーー!と苛立ちながらもぐもぐとご飯を食べる善逸に、飯時によさんかと怒る師範。
善逸の顔はさらにぶすっとしかめっ面になる。


「それより、今風邪が流行ってるらしいな。今年は時期外れの風邪に注意ってニュースでも言ってたぞ。善逸、なまえ気をつけるんだぞ」
「はい」


風邪、風邪か。
禰豆子ちゃん早くよくなるといいな。


「… なまえ」


善逸が肉じゃがを食べながら私の目も見ずに名前を呼ぶ。
どうしたのかと目の前に座っている善逸の顔を見て首を傾げる。


「何?」
「肉じゃが、美味しい」


最近の善逸は少し変だな、なんて思いながらそれでも褒められたことに嬉しくなって笑った。


「そっか、よかった!」


ぷいとまた視線を逸らされて、微妙な気持ちになる。

どうしてそんな目でいつも私を見るのだろう。
なのにどうしてすぐ目を逸らすのだろう。


なんだかざわつく嫌な感覚に落ち着かなくなる。


それを振り払うために口に放り込んだ肉じゃがの味は、よくわからなくなっていた。



04 家族
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