「…ねえ、君どうしたの?具合でも悪い?」


夜、一人で公園のブランコに揺られていると、お日様のような髪と瞳をした男の子が私を心配そうに見下ろしていた。

男の子は私に手を差し伸べて、送ってあげるから帰ろうと言った。
その手と心の暖かさに、私は胸の真ん中がじんわりと暖かくなっていっぱいになって溢れて、溢れ出した想いが涙になって零れ落ちた。







「善逸、もう行かないと風紀委員の仕事遅れちゃうよ」


鏡の前で寝癖と格闘していた善逸に声を掛ける。
善逸はゲッもうそんな時間!?と慌てながら玄関へドタドタと向かう。
私は二人分の鞄を手に取ってその後を追った。


「師範、行ってきます!」
「行ってきます爺ちゃん!!」
「気をつけて行ってこい」


師範がニッと笑いながら手をあげてお見送りをしてくれる。
靴を履き終えた善逸に鞄を渡し、私も素早くローファーを履いて家を出た。


「もっと早く言ってよなまえ」
「ごめん」


駅へ向かう途中で善逸の小言が飛んでくる。
未だ跳ねた寝癖を気にしている善逸が少し可愛くてくすりと笑った。


「…あれ」


駅まで着くと、いつもより人がたくさんいた。
嫌な空気を感じる。


「…また遅延してるのかよ」
「多いよね。ほんと」


授業に遅れる時間ではないが、風紀委員で校門前で服装のチェックをしないといけない私たちにとっては痛い遅延だった。


「噂だけど何かすごい変態鉄道オタクがいていつもその人が遅延させてるらしいよ」
「はあ?」


善逸が舌打ち混じりに迷惑な人だな、と呟く。
本当にその通りだ。
遅延はすぐに解消して、謝罪のアナウンスを聞きながらやって来た電車に乗り込んだ。

遅延していたおかげで車内がいつもより混んでいる。
私と善逸は人に押され奥へ奥へと進んでいく。


「… なまえ大丈夫か?」
「う、うん…」

善逸が私のために少しスペースを開けてくれる。
気を抜くと身体がくっついてしまうのか、必死そうだ。
別にくっついたっていいのに、と拗ねたような顔をしてやるも善逸は気付かない。


がたん、と電車が揺れて、善逸がおわっと声を出して私になだれかかってきた。
唇が触れてしまいそうなくらい近くに善逸の顔があって、あまりの近さに身体中が熱くなって心臓がばくばくと音を立てる。
嫌だな、善逸聞こえてないといいけど。


「ご、ごめん!」
「だい、じょうぶ」


顔を真っ赤にした善逸がパッと体制を立て直す。
あと一駅で着く。それまでの我慢だ。

早く着いて欲しい、まだ着かないで欲しい。
心の中で二つの葛藤が喧嘩していた。



学校に着くと善逸はなんだかぐったりしていた。
風紀委員の仕事を始める時間には間に合ったけど、少し急いで学校に来たせいだろうか?


すぐにチェック表をバインダーに挟んで校門前に二人で立つ。

生徒たちも次々に登校してきて一人一人目視チェックしていく。


「おはよう。善逸、なまえ!」


炭治郎がにこやかにやって来た。
善逸はおはよと短く挨拶して女の子のチェックへ行ってしまった。


「おはよう炭治郎、今日は朝時間なくて竈門ベーカリー寄り損ねたよ」
「ああ、母さんが心配してたぞ。何かあったのか?」
「電車が少し遅延してたの。…っと、炭治郎ピアス駄目だよ」
「父の形見なんだ、すまない!」
「…冨岡先生に見つからないうちに行って」
「ありがとうなまえ!」


全く、毎日毎日…と思ってると猪突猛進!!と聞き慣れた声が土埃立てながら走ってくる。


「伊之助!ちょっと止まって!!」


がしっと首元を掴む。
んだよ!と伊之助に睨まれる。


「前ボタン止めて!あと夏服はまだ早いよ」
「あ?いいじゃねえかうるせえな豆大福」
「なまえだよ。いい加減覚えて」


伊之助のボタンを一個一個閉じていく。
女の子のチェックを終えて来た善逸が何してんの!?と慌てて近寄って来て私と伊之助の間に割り込む。


「何新婚夫婦みたいなことしてんだよ?!」
「何言ってるの善逸…また伊之助がボタン閉めてなかったから閉めてるだけで…」
「俺がやる!」
「やめろ鬱陶しい!開けといたほうがラクなんだよ!!」
「なまえはいいから!伊之助もいい加減ちゃんとしないと俺が怒られんだよ分かってんのかよ!」
「紋逸が怒られたところで俺の知ったこっちゃねーんだよ!はっはー!!」


伊之助は善逸の手を振り払い、お腹に頭突きを喰らわせて校舎へ走り去って行った。








「はあ…何か朝から疲れたな…」
「お疲れ、善逸」


嫌々と文句を言いながらもしっかり仕事をこなす善逸を偉いと思う。
私は少しでも善逸と一緒に過ごしたいと言う邪な気持ちだけで風紀委員に入ったから仕事についてはむしろやる気がある。


「半分はなまえのせいでもあるんだけど…」
「え?」
「…何でもない」


少し拗ねた顔をする善逸のほっぺをぷにと突っつく。
可愛い。
善逸は更に機嫌を損ねたようだった。


クラスが別なので途中で別れて自分の教室に入る。



…あーあ、クラスも同じだったらよかったのになあ。



善逸が私に手を差し伸べて救ってくれたあの日からまだ、彼に恋をし続けている。



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