最近、善逸となまえが二人でいると蜂蜜のような甘ったるい匂いが凄い。

二人別々の時はそんな匂い一切しないのに、だ。


元々二人は仲が良かったし、恐らく恋仲になったのだろう。
それにしてもむせ返るような甘い匂いがする時がある。
正直気になってしまう。


今日もまた、蝶屋敷に戻ってくると二人特有の甘い匂いがどこからかしてくる。

匂いを辿っていくと、一つの部屋に辿り着いた。
普段俺や善逸、伊之助が寝ている部屋だ。


「ぜ、善逸…まだ昼間だから…」
「我慢できないんだ、お願いなまえ」
「だ、駄目だって」


…あ、なんか聞いちゃいけない感じだ。
俺はくるりと回れ右して部屋の前から歩き出す。
途中で伊之助が猪突猛進ーー!!と走ってきて、善逸たちがいる部屋に入っていった。

早過ぎて止める暇もなかった。


部屋の中からは善逸の悲鳴めいたものが聞こえて、なまえが真っ赤な顔をして飛び出してきた。


「わ、た、炭治郎…!?もしかして…気付いてた…?」


どう反応していいものか分からず、あははと苦笑いをした。
それを見たなまえはさらに顔を赤くして走り去って行った。


「なまえっ… なまえーー!!」
「善逸の馬鹿ぁっ!!」


善逸が廊下まで出てきて膝をつきながらもう背中見えなくなったなまえに縋るように叫ぶ。

部屋から伊之助が出てきてぷるぷると震えていた。


「こいつらツガイだったのか…?」


ああ、収集つかなくなってきたぞこれは…。

それにしても、と思う。
ここ最近のなまえは出会った頃と比べると随分普通の女の子のようになったなあとしみじみ感じる。
表情も豊かになり色んな顔を見せるようになった。

これも善逸の為せる技なのかと俺は少し尊敬した。







「ふへへ」

善逸が幸せそうな顔をしている。
どうかしたのかと聞きたいが、話が長くなりそうなのでやめておいた。

「ふふふ」

ニコニコと顔全体をだらしなくさせた善逸。
とりあえず気にしないで通り抜けよう。そうしよう。

するとぐいと長い手が俺の首元を掴んで離さない。


「善逸、離してくれ!稽古に行けないだろう!」
「その前に聞いてくれよ炭治郎ぉ〜」


だらしない顔のまま俺にくっついてくる。


「なまえがさぁ〜可愛くてさぁ〜この間なんかさぁ〜」


うっ!善逸一人なのになんだこの甘ったるく幸せそうな匂いは…!
善逸はお構いなしで最近のなまえがこんなことを言っただのその時の顔が可愛かっただの凄い勢いで捲し立ててくる。


ふと、嗅ぎなれた匂いが近付いてくる。
これ…どうするのが正解だ…?

俺は分からず狼狽るが話に夢中になっている耳がいいはずの善逸は気が付かない。


「…善逸…」


ゆらり、と背後から怒りの匂い。
あ、やっぱりそうだよな。


「恥ずかしいこと言わないでって言ってるでしょう!」
「ひええっ!?なまえいつからそこにいたの!?てか炭治郎気付いてたなら教えろよおお!!」


なまえは善逸の首根っこを捕まえてずるずると連れて行く。
俺はその様子を見届けてからようやく稽古を始められるとため息をついた。

しばらく庭で素振りをしたり走り込んだりしていると、いつもの甘ったるい匂いがしてきて、ああなまえ、善逸に負けたんだなと苦笑した。



甘い匂いの正体は
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