善逸は一人での任務でも文句言わずに行くようになった。
相変わらず怖いとか嫌とか言うけど死ぬとは言わなくなった。
成長してるんだなあと頬が緩む。
「いってらっしゃい、善逸」
私は自身の黄色いリボンを善逸の手首に結ぶ。
善逸が一人で任務に出る時のおまじないのようなもので、今ではすっかり当たり前になった。
「…うん」
青い顔をして震えながらも、善逸はちゃんと蝶屋敷を背に歩き出す。
その少し頼りない背中が何だか可哀想で、思わず私は善逸の名を呼ぶ。
「善逸!」
「…なに?」
振り返る善逸に、私はどうしたら善逸が喜ぶか考える。こういう時善逸はいつも…そうだ!
「帰ってきたらご褒美あげる、ね?」
「ご褒美…?」
「善逸の好きなことしてあげる!考えておいてね」
「…!!」
善逸はぼふんと音をさせ顔を真っ赤にしてはふはふとしながら走って行ってしまった。
…何させられるんだ、私?
▽
「おかえり」
善逸が緩く私にもたれかかる。
私はぎゅっと抱きしめその暖かさを堪能する。
ああ、善逸の匂いがするなあ。
「ご褒美…くれる?」
「うん、あげるよ。何がいい?」
善逸の瞳が、熱く欲に塗れた色に変わっていく。
「…善逸?」
少し怖くなって、私は後退りをする。
後ろの壁に背中が当たって冷たい。
それとは反対に熱い唇が私の唇に重なって、ぶわと身体中が熱を帯びていく。
「はっ、ぁ…善逸…っご褒美、もうこれでいいでしょ…」
「まだ」
再び唇が重なる。
善逸、なんか変。
やめてほしいのに、とろけそうになっているはしたない自分が恥ずかしくてさらに身体が熱くなる。
「っはぁ…」
ようやく唇を離してくれた。
善逸の頭がとんと私の胸元に乗る。
善逸はごめん、とだけ小さく呟いた。
「…どうしたの?」
「任務で一緒に仕事した人を…救えなかった」
「そ、っか…」
「なまえをもし…救えなかったらと思ったら…怖くなった」
私は善逸を抱きしめ、よしよしと撫でる。
「大丈夫、私は自分を大切にするって決めたんだから」
「…うん」
善逸は私から少し離れて、私を見つめる。
そしてまたゆっくりと唇が重な…
「善逸!帰ってきたのか!」
「「っ!?!?」」
一瞬で二人ともばっと離れる。
炭治郎が私たちを見つけると嬉しそうに笑った。
善逸は、はははと空笑い。
「た、炭治郎もおかえり!任務疲れたでしょ」
「ただいま!少し疲れたな。そういえば伊之助もさっき帰ってきたぞ!」
「みんな揃うの久しぶりだね」
すん、と炭治郎が鼻を鳴らす。
「ああ…それより、何だか二人から…蜂蜜のような花と甘い匂いが混じった匂いがするんだが何かしてたのか?」
「「!?」」
私たちは二人顔を見合わせ真っ赤にして、あたふたと炭治郎に何もしてないと誤魔化す。
炭治郎は怪訝そうに首を傾げた。
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ご褒美