煉獄さんの死後、私たちは怪我の為また蝶屋敷にお世話になっていた。

特に私は列車から飛び出て皆の下敷きになった時に頭を地面にぶつけたので何度もしのぶさんの診察を受けることになった。


そして、あれから私と善逸は口を聞いていない。


善逸の言いつけを守らずに煉獄さんの元へ行ったことで善逸は本気で怒ってしまったらしい。
話しかけても無視される。
こんなことは出会ってから初めてでどうしていいか分からない。


私は話したいことがたくさんある。
煉獄さんの残してくれた言葉が、私を変える勇気をくれた。

善逸の空気と辿り、部屋の前へやって来る。
今は善逸しかいないようだ。
少し迷って、意を決して戸を開ける。


「善逸…」


がらと開けて、躊躇いがちに顔を出す。
案の定善逸はこちらを見てくれなかった。


「話が、あって…」
「何」


普段と違う冷たい言葉に、胸が詰まりそうになる。
私は視線を彷徨わせながら、言葉を探す。


「無限列車の時は…ごめん、善逸の言いつけ守らなくて」
「…」
「…」


善逸は視線を布団に落としたまま。
私も何となく視線を落とした。
しばらく間があって、善逸がため息混じりに口を開いた。


「…俺はなまえが大切だよ。俺に力があるなら他の人も皆も守りたい。でもそこになまえが居ない未来は嫌だ」
「善逸…」
「だからもっと自分を大切にしろよ!俺ばっかりじゃなくてさ!!」


善逸はぎゅっと布団を握り締めていた。
その手は僅かに震えている。


「煉獄さんにもね、言われた。私気が付かなかったの、馬鹿だから…私が傷付く度、善逸も傷付いてたってこと…」


私は変わる。変わらないといけない。
煉獄さんにも言われたんだから。


「すぐには変われないかもしれない…でも、自分のこともっと大切にする」


善逸はうん、と小さく頷いた。


「なまえが無事で良かった」


善逸の手の震えは止まっていた。
私はもう一度ごめんね、と呟く。


「じゃあ…善逸、また後でね」


私が立ち上がって背を向けると、善逸に手首を掴まれた。
その手の熱さに驚いた。
振り返ると少し頬を染めて眉を顰めた善逸が私を見上げている。


「…善逸?」
「なまえ、明日…」


口を開いて、一瞬躊躇って。
そしてもう一度私を見上げる。
善逸の口元が震えている。


「明日…昼、予定ある?」
「朝、しのぶさんに見てもらったらその後は何もないよ」
「じゃあ、俺に付き合って」
「う、うん」


何だか真面目な空気に私も戸惑う。
掴まれている手首に熱が集まっていく。


「善逸…」
「っ…じゃあまた明日な!!!」


善逸は私の手を離して、がばっと布団をかぶった。
私は丸い形の布団にふと笑いかけてまた明日、と呟いた。



32 仲直り
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