煉獄さんは、炭治郎に"ヒノカミ神楽"のことで煉獄さんの生家に行くといいと勧めた。
そこには歴代の"炎柱"が残した手記があるはずで、煉獄さんは読んだことがなかったので分からないがもしかしたら"ヒノカミ神楽"について何か記されているかもしれないと語った。


「煉、煉獄さん…もういいですから…呼吸で止血して下さい…傷を塞ぐ方法はないんですか?」
「無い。俺はもうすぐ死ぬ。喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ」


そんな、嫌だ。
私は溢れる涙を止めようと顔を覆って声を出さずに泣いた。


「弟の千寿郎には自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい。父には身体を大切にして欲しいと」


それから、と煉獄さんが炭治郎に微笑みかける。


「竈門少年。俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める」

その言葉を聞いて炭治郎の目からは涙が溢れる。

「汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。胸を張って生きろ」


煉獄さんが黄色い少女、と私を呼んだ。


「はい…」
「君が捨て身で人を庇って汽車から飛び出すのを見た。躊躇なく人を助けられるのは凄いことだ。しかし君はもっと自分を大切にしなさい…自分が傷付くことでそれ以上に誰かが傷付くこともあるんだから」
「…!」


ううっ、と抑えきれなくなった嗚咽が漏れる。
そんな簡単なことすら気付かなかった。


「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。若い芽は摘ませない。」


気にしないわけがない。
悲しい。
こんなに強く優しく誇り高い人がここで終わってしまうことが。
私がもっと強ければ、何か出来たかもしれないのに。


「竈門少年、猪頭少年、黄色い少女、黄色い少年。もっともっと成長しろ。そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。俺は信じる」

煉獄さんの姿を目に焼き付けたいのに、涙が溢れて滲んでよく見えない。
何度も何度もごしごしと目を擦っても擦っても歪んでしまって私は更に泣いた。







「死んじゃうなんてそんな…ほんとに上弦の鬼来たのか?」
「うん」


禰豆子ちゃんの箱を背負った善逸が、やって来た。
放心状態だった私たちを見て、唖然とする。


「何で来んだよ上弦なんか…そんな強いの?そんなさぁ…」
「うん…悔しいなあ…何か一つ出来るようになってもまたすぐ目の前に分厚い壁があるんだ」


それは、私も、きっと伊之助も思っていたことで。


「凄い人はもっとずっと先の所で戦っているのに俺はまだそこに行けない。こんな所でつまずいてるような俺は…俺は…煉獄さんみたいになれるのかなぁ…」


炭治郎が両手を地につけて泣く。
善逸の背中にも辿り着けない私が、煉獄さんのようになんてきっと…


「弱気なこと言ってんじゃねえ!!なれるかなれねぇかなんてくだらねぇこと言うんじゃねえ!!!」


今まで黙っていた伊之助が叫び出す。
絞り出すような声で。


「信じると言われたならそれに答えること以外考えるんじゃねえ!!死んだ生き物は土に還るだけなんだよ!べそべそしたって戻ってきやしねえんだよ!!」


悔しくても泣くんじゃねえ!!と言いながらぼろぼろと泣く。
そして伊之助は修行だ!修行するぞ!と炭治郎を、ずるずると引き摺った。



31 黎明に散る
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -