真面目な彼は授業中寝たりしない。
黒板に書かれた文字をノートに書き写して、時々質問して。

少し離れて斜め後ろの席に座る私は、そんな彼…竈門炭治郎をああ好きだなあと思いながら授業を贅沢に無駄に使う。


ふと、炭治郎のいつも見てる景色が見たくなって誰もいない放課後一人彼の席に座ってみた。


これがいつも炭治郎が見てる景色か、
厳密には身長が違うからもう少し上から見てるのかもしれない。
彼の見てるものと私が見てるものは全く同じに見えるのだろうか。例えば色や、匂いや、音さえも。

何か同じものを共有してみたくて、こんなことをしてしまった。



……激しく後悔した。



がらりと空いた教室のドア。
ばちり、と彼の赤みがかった綺麗な瞳と視線がぶつかった。

「… なまえ?」

そこで何してるんだ?と炭治郎は思っただろう。
少しだけ首を傾げたようにも見えた。


「あっ、ごめん…」


とりあえず立ち上がる。
なんて説明すれば良いか分からず、戸惑ってしまう。
間が開けば開くほど、不自然だ。
いや、もうすでに不自然だけど。

そうこうしてるうちに、炭治郎はああ、と何か納得したように笑った。


「いや、いいんだ!そうか。… なまえはそこの席に座りたかったんだな?」
「…えっ?」


何か勘違い、してる?


「俺の席は教室の真ん中だからな!黒板が見やすい!」
「えっと…そうだね」
「次席替えするならどこが良いか考えていたんだろう?」


えーっと…。
そう言うことにしておいた方がいいのかな、これ。


「俺としては、好きな子が実は俺に気が合って俺の席に座ってたのなら嬉しい」


そんなわけないか!あははと炭治郎は自分の席から課題のプリントを取り出して、鞄に仕舞い込む。


「なまえまたな!」


ニコニコとそのまま炭治郎は教室を出て行った。


好きな子が、どうとか言ってたのは…何だったんだろう?
えっと、えっと…話の流れ的に、それって…。


ぼうっ、と顔から火が出そうになる。湯気出るんじゃないか、これ。


「あ、そうだなまえ!」
「ふえっ?!」


帰ったと思った炭治郎がひょっこりとドアから顔を覗かせていた。


「さっきのが勘違いじゃないなら…一緒に帰らないか?」


夕陽なのかそれとも別の理由なのか分からないけど頬が少し赤く染まっている炭治郎ははにかみながら、私に問う。


「勘違いじゃないから…一緒に帰りたい、です」


私の頬は夕陽なんかよりもっときっと赤くて、炭治郎は気付いているだろうな。
そもそも鼻の利く炭治郎が気付かないはずがないんだけれど。


「じゃあ…帰ろう!」


私は炭治郎の横に立って、少しでも同じ景色を見たいとまた願った。



夕焼けはときどき優しい
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