いつものように善逸のベッド脇に行く。
善逸は最近少しおかしい。
私の顔を見るなりそわそわしたり…。
かと思えば顔を青くしたり赤くしたり。
善逸は耳が良い。
意識が朦朧としていた那田蜘蛛山で私が好きだと言ったことを聞いて覚えているんだと思う。
私は何であんなことを言ってしまったんだろうと後悔した。
だって、どうしたら良いかわからない。
彼の隣に立ってずっと横を歩いていける未来を想像できない。
善逸の背中はとても遠い。
私がどれだけ練習しても鍛錬しても近付いた気がしない。
しのぶさんが部屋に入って来て、どうですか身体の方はと問われ我に帰る。
炭治郎がかなり良くなって来てますと言う。
私もこくこくと頷いた。
「ではそろそろ機能回復訓練の入りましょうか」
しのぶさんが、綺麗に笑う。
機能回復訓練?とみんなで首を傾げた。
▽
「ではご説明させていただきますね」
アオイちゃんがテキパキと説明してくれる。
寝たきりで硬くなった身体をきよちゃん、すみちゃん、なほちゃんがほぐしてくれる。
そして反射訓練としてお互いに湯呑みに入った薬湯をかけ合う。かける前に相手の湯呑みを抑えれば動かせないらしい。
そして最後に全身訓練…いわば鬼ごっこをするらしい。
何だ、そんなにキツくないんだな。なんて思っていた自分をぶん殴りたい。
体をほぐすとは名ばかりで最早曲がるはずのない所までぐいぐい伸ばされるのだ。涙が出るほど痛い。
反射訓練は同期のカナヲちゃんに全く勝てず薬湯でびちゃびちゃに。
そして全身訓練もまた、素早い攻撃が特徴の雷の呼吸使い手の私がカナヲちゃんに指一本触れられないのだ。
心が折れそうになった。
師範に稽古をつけてもらっていたときもそりゃキツかったが、同期の女の子にすら手が届かないとなるととても悔しかった。
善逸の背中も遠いが、カナヲちゃんの背中も物凄く遠く感じた。
しばらくして善逸も機能回復訓練に参加し、最初こそ女の子に触れると喜んでいたがカナヲちゃんに勝てず諦めてしまった。
負け慣れていない伊之助は不貞腐れへそを曲げた。
「炭治郎さんとなまえさんだけ!?信じられないあの人たち!!」
アオイちゃんが呆れた顔をする。
私と炭治郎がすみませんすみません明日は連れてきますとペコペコ謝る。
それにはいいえ!!と強く拒否された。
「あの二人には構う必要ありません。あなた方も来たくないなら来なくていいですからね」
炭治郎と二人でしょんぼりする。
私は強くなりたい。
善逸の隣を正々堂々立派に立てるように。
だからやめるわけにはいかないのだ。
炭治郎と二人で機能回復訓練に参加し、例の如くびちょびちょになる。
訓練が終わり、二人で肩を落としながら部屋に戻る途中、三人娘が私と炭治郎の服の裾をちょんちょんと引っ張り手拭いを渡してくれた。
「ありがとう、優しいね」
「ありがとう!助かるよ」
私たちの言葉に三人はぱあっと顔を明るくさせて、とんでもないことを言う。
「あの、炭治郎さんとなまえさんは全集中の呼吸を四六時中やっておられますか?」
…んっ!?
私は炭治郎と顔を合わせる。
「朝も昼も夜も寝ている間もずっと全集中の呼吸をしていますか?」
「やったことないです。…そんなことできるの!?なまえやったことある?」
ぶんぶん!と思い切り顔を振る。
「それができるのとできないのとでは天地ほど差が出るそうです」
「全集中の呼吸は少し使うだけでもかなりきついんだがそれを四六時中か…」
「それって死なない?」
「死にません!」
少しでもあんなにきついのに四六時中…寝てるときまで出来るものなの…?
不安になってくる。
「できる方々は既にいらっしゃいます」
「柱の方々やカナヲさんです」
「頑張ってください」
隣にいる炭治郎はようやくカナヲちゃんに追いつけない訳を知り、嬉しそうだった。
私は反対に自分にそんなことができるのかと不安でいっぱいだった。
「なまえ!頑張ろう!」
「…!うん!」
炭治郎を見ていると、不思議とやる気が出てくる。
きっと彼が何事にも諦めず前向きだからなのだろう。
できるようになったら善逸や伊之助にも教えてあげよう。
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19 機能回復訓練