なまえが伊之助や、炭治郎と楽しそうに手合わせをしている。
俺は寝ている禰豆子ちゃん眺めてるからやらないと言ったけど、なまえが炭治郎と楽しそうに話していると何だかムカついてくる。
この間まで俺ばっかり構ってたくせにさ。
今は炭治郎や伊之助と楽しそうに遊んじゃってさ。
なまえの鎹烏が明日の早朝に任務に出発しろと命令してきて、俺は更に機嫌が悪くなる。
何でまた別の任務なんだよ。
そんなことを一日中考えていたせいか、寝てもすぐに目が覚めてしまう。寝付きがあまり良くない。
夜風に当たって気持ちを落ち着かせようと縁側に座る。
しばらく色々なことを考えていると、出てくるのはなまえと一緒に修行して寝食共にしたあの家のこと。俺の思い出の大半が爺ちゃんとなまえばかりだ。
ふとなまえの聞き取りづらい音が近付いてくる。
こんな時間にどうしたんだろう、もしかして俺を探してきたのだろうか。
「善逸」
凛とした声が俺の名前を呼ぶ。
「どうしたの?目、覚めちゃった?」
「うん…」
優しく宥めるような声で、当たり前のように俺のすぐ隣に腰を下ろす。
だからそういう所なんだってば。
「善逸?」
なまえが俺の様子を不思議そうに見つめる。
まだ薄暗い月の光に当てられたなまえが綺麗に見えて戸惑う。
何でこの子はいつも俺が側にいて欲しい時に来るんだろう。
そのくせすぐに手の届かない所まで行ってしまう。
「なまえ、また別の任務だな」
「…もしかして、寂しい?」
少し刺々しくなった俺の言葉に、悪戯っぽく笑う。
"寂しい"なんて自分でも気付いていなかったことを言われて焦る。
そりゃ、寂しいよ。
お前のこと心配だしさ!
俺がいた所で足引っ張るだけだろうけどさ!
寂しいなんて言ったらなまえはどう思うだろうか。
なまえはまた悲しい音をさせないだろうか。
嬉しく思うのだろうか。
分からない。けど、
「寂しい」
言ってしまった。
なまえの聞き取りづらい音が一瞬跳ねた。
ああ、何だよこいつ。
やっぱり、俺のこと好きなんじゃん。
「そっか、私も寂しい!」
なまえは精一杯笑って見せる。
俺の顔を見ないように、自分の懐から黄色いリボンを取り出す。
「これ、善逸が持ってて」
「…え」
「お願い」
今度は目を逸らさずにしっかり目を見て、俺の手にリボンを握らせる。
いつか俺があげた、毎日髪につけて手入れもかかさないリボン。
「次いつ会えるか分からないもん…寂しい時、これを見て師範と…私を思い出してね」
俺はぎゅっとリボンを握りしめて、こくと頷いた。
「善逸も次の任務決まったら文を送ってね。」
「うん」
「…絶対に、死なないで」
どうしてそんなに不安そうなんだ。
俺が弱いから?
俺が頼りないから?
なまえに触れようとして、やめた。
いつもこうだ。
分からない、なまえのことが。
俺のことが大切なくせに、俺の視線からすぐ逃げるなまえが、分からない。
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14 嫉妬