伊之助が脳震盪で倒れてから、皆で最初に落ちてきて亡くなってしまった人や屋敷の中で亡くなってしまった人たちの埋葬を始めた。
肋が痛むが、そのままにしておくことなんて出来ない。
誰も文句言わずに一人一人丁寧に埋めていく。
どうか成仏して下さいと手を合わせながら。
しばらくすると目が覚めた伊之助が勝負勝負ゥ!と善逸を追いかけ回す。
そして埋葬中の私たちと目が合った。
「何してんだァお前ら!」
「埋葬だよ。伊之助も手伝ってくれ。まだ屋敷の中に殺された人がいるんだ」
「生き物の死骸なんて埋めて何の意味がある!やらねぇぜ手伝わねぇぜ!!そんなことより俺と戦え!!」
ちょっと変わった子だなと思った。
もしかしたら育った環境に何か理由があるのかもしれない。深く聞くのはやめておこう。
「そうか…傷が痛むからできないんだな?」
「は?」
「いやいいんだ、痛みを我慢できる度合いは人それぞれだ。亡くなってる人を屋敷の外まで運んで土を掘って埋葬するのは本当に大変だし…善逸となまえとこの子達たちで頑張るから大丈夫だよ。伊之助は休んでるといい」
優しい声で笑いかける炭治郎。
違う気がする…。
「はあ"ーーーーん!?舐めるんじゃねえぞ百人でも二百人でも埋めてやるよ!!」
あ、扱いやすい人だ。
私は手を合わせて埋葬を終わらせ、また次の人の埋葬に取り掛かる。
伊之助が加わってからはより早く作業が終わって効率的になった。
全員を埋葬し終わると、鎹烏が山ヲ下レ!と命令してきて山を下ることになった。
途中、善逸が正一くんは強いんだ守ってもらうんだとしつこいので怒るとうわああんと泣く。見かねた炭治郎が首に手刀をし何とか引っ剥がしてくれた。
稀血の清くんには鎹烏が藤の花の匂い袋をぺっと渡して、子供達は帰っていった。
「そうか、伊之助も山育ちなんだな」
「お前と一緒にすんなよ。俺には親も兄弟もいねえぜ」
伊之助はちっとも悲しそうじゃないのに、炭治郎は涙を堪えながらそうかそうか…と伊之助を哀れむ。
炭治郎やっぱちょっとズレてるなあ。
「俺は必ず隙を見てお前に勝つぞ!!」
「竈門炭治郎だ!」
「かまぼこ権八郎!お前に勝つ!!」
「誰だそれは!」「お前だ!」
うるせええ!と善逸が目を覚ます。
そして、私達四人は藤の花の家紋の家に辿り着いた。
鎹烏が負傷につき休息せよという。
炭治郎は「今回怪我したまま鬼と戦ったけど」という答えに鎹烏はケケケと言っただけだった。
そしてお婆さんが家から出てきた。
「鬼狩り様でございますね…」
弱っちそうだなと伊之助がお婆さんをつつくので慌ててやめさせた。
中に入るとすぐに食事の用意がされ、そしてまたすぐに布団の用意もされる。
それを見た善逸が異様に早いもん妖怪ばばあだと騒ぐので叱りつける。
「まさか四人とも肋が折れてるとはな…」
「それより… なまえも同じ部屋なの!?女の子なのに!?」
「あ、別の部屋用意してくれようとしたから申し訳なくて断った」
「何断ってんだよ!?」
「え…四人で寝れる広さあるしいいじゃない?」
よくない!と善逸が怒りだす。
伊之助が俺はここだ!と端っこに寝転ぶ。
善逸はなまえはこっち!!と反対側の端に私を寄せた。
…別にどこでも良いんだけどなあ。
「…炭治郎、誰も聞かないから聞くけどさ鬼を連れてるのはどういうことなんだ?」
「私も気になる。炭治郎ならきっと何か理由があるんだと思って黙ってた」
「善逸、なまえ…分かってて庇ってくれたんだな」
炭治郎が嬉しそうに笑った。
「二人とも本当にいい奴だな。ありがとう。」
「おまっ!そんな褒めても仕方ねぇぞ!うふふ」
ごろんごろんと善逸が転がりながら気持ち悪い照れ隠しをする。
「俺は鼻が利くんだ最初から分かってたよ善逸となまえが優しいのも強いのも」
「いや強くねえよふざけんなよ」「善逸は強いけど私は強くないよ」
カタカタ、と炭治郎の木箱が揺れる。
それに善逸が大袈裟に驚いて騒ぎ立てる。
「うわうわ!出てこようとしてる!?」
「大丈夫だ!」
「何が大丈夫なの!?キャーーーッ!!!」
「善逸うるさい!夜中だよ!」
だってえと涙目になって私の後ろに隠れる善逸。
ギィイ、と音を立てて箱が開いた。
「ぎゃああ!守って、守ってなまえ!!」
そしてひょこ、と可愛らしい女の子が現れた。
その女の子は箱から出てくるとみるみる大きくなって、私と同じくらいの背丈になった。
「禰豆子!」
炭治郎が女の子に駆け寄る。
そして紹介する様に禰豆子は俺の…というと善逸がゆらりと炭治郎に詰め寄る。
「お前…いいご身分だな…!!」
「えっ?」
「こんな可愛い女の子連れて毎日ウキウキウキウキ旅してたんだな…俺の流した血を返せよぉ!!」
善逸と炭治郎は無視しておいて、私は禰豆子ちゃんに近付いて行った。
鬼、なんだよね。
禰豆子ちゃんも私をじっと見つめる。
「はじめまして、なまえです」
禰豆子ちゃんはむう、と答えてくれた。
よろしく…と言おうとした時、禰豆子ちゃんが私を抱きしめて、頭を撫でた。
「えっと…炭治郎これは?」
善逸に刀片手に追いかけられている炭治郎に尋ねる。
「ああ…禰豆子はなまえが家族の誰か…多分妹だと思っているんだと思う」
「そう、なんだ…」
家族…かぞく?
家族は、こんなふうに優しく抱きしめて頭を撫でてくれるものなの?
こんな私を家族だと思ってくれるの?
胸の奥がじんと熱くなって、温かい気持ちが溢れる。
「…っ」
ぽろ、と涙が溢れた。
「!!ねっ、ねねね禰豆子!やめ、やめなさい離れるんだ!」
「あっ違うの…嬉しくて」
「!」
ありがとう、禰豆子ちゃん。
私はそう呟いて禰豆子ちゃんを抱きしめた。
「私は両親に捨てられてるんだ…要らないって言われて…だからね、嬉しかったんだよ」
「そうだったのか…」
炭治郎がほろりと泣きそうになりながら頷く。
炭治郎はそう言えばなんか前にもこんな事あったな、と苦笑いをした。
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10 藤の花の家紋の家