「おっお兄ちゃんあの箱カリカリ音がして…」
「だ、だからって置いてこられたら切ないぞ!あれは俺の命よりも大切なものなのに…」
命より大切なもの…か。
ふと屋敷がミシッ、ミシッと音を立てる。
ハッとして見回すとギイイイイと嫌な音がこだまする。
それに驚いた善逸がぎゃあああと叫んで前屈みになると、後ろにいた炭治郎と女の子にお尻が当たって反動で隣の部屋に入る。
「ごめん、尻が…」
その瞬間ポン!と鼓の音がして、目の前から炭治郎と女の子が消えた。
「炭治郎!!」
私が呼んでも、返事はない。
消えたんじゃない…部屋が変わったんだ…。
「死ぬ死ぬ死ぬ死んでしまうぞ…炭治郎と離れちゃった!」
「てる子!てる子!!」
男の子が叫ぶ。
それをすかさず善逸が止めに入る。
「ダメダメダメ!大声出したらダメ!外に出よう!」
善逸の声が一番大きいけどね。
「外になんて出ないよ。炭治郎と…てる子ちゃん?探さないと。それにこの中には捕まってる人もいるんだよ、助けないと」
がら、と違う戸を開けて中に入る。
「え、ちょっ…待ってなまえ!またバラバラになっちゃうから先に行かないで…」
ポン、と鼓の音が鳴った。
善逸の顔が、真っ青になるのと同時にぐにゃりと空間が歪んだ。
そして善逸も男の子も見えなくなった。
…つまり二人ともはぐれてしまった。
「善逸…ごめん」
今頃なまえともはぐれちゃったよおおと泣いていることだろう。目に浮かぶ。
とにかく善逸を探そう。目の届かないところにいられるとなんとも落ち着かない。
扉を開けて回るが、どこもかしこもおかしい。
部屋から戸を開ければ廊下のはずなのに開けると違う部屋に繋がっていたり、玄関を見つけて開けてみてもまた違う部屋だったり。
恐らく血鬼術のせいだと思うけど、厄介だな…。
戦力分散目的なのだろうか?
「善逸ー!」
空間自体が歪んでいるのか。
空気が読みづらいのはそれが理由かもしれない。
戸を開けると今度は廊下に出た。
そして、太い体型をした鬼と目が合った。
私は刀に手をかける。
と同時に廊下の奥から走って来る音がする。
鬼でも善逸でも炭治郎でもない、他の人間の不思議な空気だ。
「誰だかわからないけど止まって!鬼がいる!!」
私の声と同時に廊下の曲がり角でギャっと止まって、鬼の攻撃を寸前で避け後ろへ飛び跳ねるように距離を取る。
「!」
誰なのかと見てみると、猪の頭を被った不思議な奴がいた。
「避けたな…随分活きの良い人間だお前の肉はえぐり甲斐がよさそうだ」
猪男は、我流、獣ノ型…と呟いて鬼に突進していく。
「的がでかいと切り裂き甲斐があるぜ!!」
「ホホッ正面から向かって来るとはいい度胸だ」
そしてスパンと鬼の腕を切る。
「痛っ……!」
鬼が完全に私のことを忘れてるので、その隙に刀を構える。
「伍ノ型…熱界雷」
後ろから一瞬で間合いに入って決める。
鬼の頸がストンと落ちた。
一回軽く刀を振って、鞘に収める。
「テメェ!なに人の獲物取ってんだこのクソアマぁ!!」
「?…痛みを感じる前に殺してあげたほうが良いかと思って」
「良いワケあるか!切り裂き甲斐がねェ!!」
「は、はあ」
意味わかんないや。
私は戦うのが特別好きというわけではないのし、相手は鬼と言えど元は人間。痛みを感じる前に殺してあげるのが優しさだと思っている。
でも前に立つ猪頭の男は不服そうだ。
「仕方ねェ!女ァ!俺と戦え!!」
「え…嫌だよ」
私の拒否を聞かず、すっと低く構えると走り出して来る。
「猪突…猛進!」
ぶん、と拳が私の顎目掛けて下から上に突き上げられる。
慌てて避けて距離を取る。
当たったらひとたまりも無い。なんなんだこの子は。
今度は足払いのように地面スレスレの蹴りが来て、後ろに飛んで回避する。
「ほぉ、やるじゃねえか!」
「待って、猪くん。こんなことしてる場合じゃないの。まだ鬼いるん、だって!」
話してる途中なのに攻撃を仕掛けて来る。
駄目だ、聞く気ない。
私は手頃な部屋に飛び込んだ。
あいつが来る前に部屋変われ…!
ポン!と鼓の音。
思った通り部屋が変わった。
「はあ…さすがにヒヤリとした…」
攻撃が異様に低い男の子だった。
相手をするのは骨が折れるだろう。ていうかやられる。
ポポン!と鼓の音。また部屋が変わった。
「…!炭治郎!」
炭治郎が鬼と対峙している場面に出会す。
重力で右に引っ張られる。
右側が地面に変わっているのか。
うまく身をよじり着地する。
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07 猪の男