しばらく三人で歩くと、一軒の屋敷が見えてきた。周りは鬱蒼としていて人が住んでいる様子はない。
「血の匂いがするな…でもこの匂いは…」
「えっ何か匂いする?」
「淀んだ空気だって言うのは分かるけど…」
「ちょっと今まで嗅いだことのない」
「それより何か音しないか?あとやっぱり俺たち共同で仕事するのかなあ…」
嫌な空気だ。
じとりと淀んでいて。
少しこの玄関を開けるのを戸惑う。
「音?…!」
がさ、と森の方から音がして、二人の男の子と女の子の子供が怯えた様子でこちらを見ていた。
炭治郎が子供に近付いて行くと、明らかに警戒した様子でお兄ちゃんらしき子供が妹を庇うように抱きしめる。
「こんな所で何してるんだ?」
炭治郎が声を掛けても怯えるばかりで答えない。
炭治郎はスッと跪いて、善逸の雀をパッと二人に見せる。
「じゃじゃーん!手乗り雀だ!」
チュンチュン!と雀が掌の上で鳴く。
可愛いだろう?と炭治郎が笑顔を見せると、二人はへたりと腰でも抜かしたのか座り込む。
すごいなあ、炭治郎は。
私と善逸だったらこうはいかなかっただろう。
「何かあったのか?そこは二人の家?」
「ちがう…ちがう…ばっ…化け物の…家だ…」
聞けば、夜道を歩いていたら二人のお兄ちゃんが連れ去られたらしい。二人には目もくれず、お兄ちゃん一人だけ。
そしてあの家に入って行ったらしい。
化け物…恐らく鬼だ。
「二人で後を付けたのか?えらいぞ、頑張ったな」
「お兄ちゃんの血の後を辿ったんだ…怪我したから…」
二人は震えて泣きながらも答えてくれた。
怪我…大丈夫だろうか。
「大丈夫だ、俺たちが悪い奴を倒して兄ちゃんを助ける」
ほんと?と何度も聞く二人に炭治郎は根気強く笑顔で頷いてみせる。
「炭治郎。なぁこの音…何なんだ?気持ち悪い音…ずっと聞こえる…鼓か?これ…」
善逸が言うのだからそうなのだろう。
家の中からしているのだろうか?
すると、ポン、ポン、ポンと聞こえる。
私にも聞こえた。鼓の音。
ポン!と一番大きい音がしたと思った時。
二階の窓から血塗れの人が、落ちてきた。
「「「!」」」
一瞬にしてその場の空気が凍る。
ドシャと音がして、人が地面に叩きつけられる。
「見るな!」
炭治郎が子供に言う。
私はハッとして落ちてきた人に走って近付く。
「だ、大丈夫ですか!?」
炭治郎もすぐやって来て、二人で彼を抱き起こす。
…!傷が深い…これは…
「あ…あ……出ら…外に…出ら…れた…のに死ぬ、のか…俺…死ぬ…のか…」
炭治郎と二人で、こみ上げそうになるものをぐっと堪える。
そして、抱きしめる。
すると屋敷の中からグオオオオと雄叫びが聞こえてポポポンと鼓の音がこだまする。
「あ、あ…炭治郎…この人…」
「…」
炭治郎は何も言わなかった。
死んでしまったのだ。
私は思わず唇を噛んだ。
「この人は…?」
「兄ちゃんじゃない…兄ちゃんは柿色の着物着てる…」
何人も捕まっているのか…。
早く助け出さないと…!
「善逸、なまえ!行こう!」
善逸を見ると、酷く真っ青な顔をして震えてブンブンと首を横に振る。
「そうか…分かった」
「じゃ…そこで待っててね」
ヒャーーッ!!と善逸は叫びながら私と炭治郎に縋りつく。
「何でそんな般若みたいな顔するんだよ二人ともォーーっ!!行くよォーーーっ!!!」
「無理強いするつもりはない」
「行くよォーーーっ!!!!」
炭治郎は二人の子供の前まで行き、背負っていた木箱を置いた。
「もしもの時の為にこの箱を置いて行く。何かあっても二人を守ってくれるから」
うううと泣いている善逸を引っ張りながら、屋敷の中へ入る。
「炭治郎、なぁ炭治郎。守ってくれるよな?俺を守ってくれるよな??」
「…善逸、ちょっと申し訳ないが前の戦いで肋と脚が折れてる、まだ完治してない。だから」
「ええーーーっ!!?何折ってるんだよ骨!折るんじゃないよ骨!!折れてる炭治郎じゃ俺を守りきれないぜししし死んでしまうぞ」
ちょっと善逸うるさいなあ。
空気が読みづらい。
見た所屋敷内に変わった様子はない。
ただ空気が物凄く悪いだけで。
「なまえ!なまえは俺を守ってくれるよな!?いつも守ってくれたもんな!?」
「約束はできないけど、出来る限り守るよ。でも私がいなくても大丈夫だよ善逸は」
「俺にも分かるぞ、大丈夫だ善逸は」
「気休めはよせよォーーーっ!!!」
パタパタと走ってくる音が聞こえる。
「駄目だ!!」
「ぎゃーーっ!!」
さっきの二人の子供が屋敷内に入って来ていた。
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06 鼓の屋敷