それからもいくつか任務をこなして、鎹烏がまた任務を告げる。
「南南東!南南東二行ケェ!!」
はいはいと適当に返事をすると鎹烏ガラスは何処かへ飛んで行った。
「…あれ」
少し遠くに、見慣れた羽織り。
そして見たことのない緑と黒の市松模様の羽織を着た男の子、そして三つ編みの女の子。
「さぁもう家に帰ってください」
「ありがとうございます」
女の子が市松模様の羽織の男の子に頭を下げる。
「おいーーーっ!!その子は俺と結婚するんだ俺のこと好きなんだから!」
ああ、またやったのか。
仕方ないので止めに小走りで向かう。
向かうまでの間で善逸が女の子に引っ叩かれていた。
女の子は何度か善逸を引っ叩いて、私には結婚を約束した人がいるので!と怒って行ってしまった。
私はそれを見届けてから、声を掛ける。
「善逸」
私の声にびくりと善逸が大袈裟に肩を揺らす。
そしてわなわなと振り返る。
「何、してるの」
ひょえええと情けない声を出してもう一人の男の子に縋り付く。
「なまえ!こ、これは…俺もうすぐ死ぬからッ!だから結婚しようと…」
「いつもいつも…善逸は死なないと言ってるでしょう」
私が静かに怒ると、善逸はみるみるうちに涙を溜めてだぁってえ〜とついには泣き出す。
「同じ羽織…知り合いですか?」
「この人は私の…一応兄弟子です」
あれ?よく見ればこの子最終選別にいた子だ。
「何で邪魔するんだよ!お前が邪魔をしなければ俺はあの子と結婚するはずだったのにさ!」
男の子は思いっきり引いた顔で善逸を見る
「何だよその顔は!聞け!俺はもうすぐ死ぬ!!次の仕事でだ!!俺はな、ものすごく弱いんだぜ舐めるなよ!俺が結婚できるまでお前は俺を守れよな」
「俺の名は竈門炭治郎だ!」
「そうかいごめんなさいね!俺は我妻善逸だよ助けてくれよ炭治郎ー!!」
「私はみょうじなまえ。ごめんね炭治郎。この人はいつもこうなの」
炭治郎に引っ付く善逸を引き剥がして雑に放り投げる。
「んぎゃっ!?仮にも兄弟子にこの態度は無いんじゃないの!?」
「だったら兄弟子らしい振る舞いをしてよ。炭治郎や女の子に迷惑かけて…何してるの!」
私が怒るとうわああんと泣き出す。
本当に年上かこの人は。
「…ところで助けてくれって何だ。何で善逸は剣士になったんだ。何でそんなに恥を晒すんだ?」
「言い方酷いだろ!女に騙されて借金したんだよ!借金肩代わりしてくれたジジイが育手だったの!」
「師範をジジイ呼ばわりとは…偉くなったね善逸」
ひいいごめんよおおとまた炭治郎にひっつく。
これではキリがない。
「最終選別で死ねると思ったのにさ!?運良く生き残るから未だに地獄の日々だぜ!あー怖い怖い怖い!!」
「善逸が守れって言ったんじゃない…」
「イィヤァアアアアーーッ!!いやぁぁああ!!助けてェーーーッ!!」
耳を塞ぎながらしゃがみこんでぼろぼろ涙を流し、ぶるぶると震える善逸。
「どうした!?大丈夫か?」
炭治郎は優しく背中をさすってあげている。
申し訳ない、うちの兄弟子がこんなんで。
「善逸、落ち着いて。大丈夫だから。ほらお水飲んで」
こうなると後は落ち着くのを待つだけだ。
私はお水を渡して、善逸はひっくとしゃくり上げながらごめんと私に呟いた。
毎度のことだから慣れているけれど。
▽
しばらくして善逸が落ち着いてから、私たちは三人で歩き出した。
落ち着いたらお腹が空いたという善逸に、炭治郎がおにぎりをあげる。
炭治郎は食べないのかと善逸が聞いてそれしかないと言うと二人でおにぎりを半分こして食べていた。
ちなみに私は先に食べてしまって食べ物はなにも持っていない。
「善逸の気持ちもわかるが雀を困らせたら駄目だ」
「え、困ってた雀?何でわかるんだ?」
「善逸がずっとそんなふうで仕事にも行きたがらないし女の子にすぐちょっかい出す上にイビキもうるさくて困ってるって…言ってるぞ」
いつの間に居たのか、炭治郎の手の中の雀がチュン!と可愛らしく鳴いた。
「言ってんの!?鳥の言葉が分かるのかよ!?」
「うん」
「私は鳥の言葉は分からないけど…困ってるって言うのは分かるよ。空気読も?」
「それはなまえの専売特許じゃんか!」
善逸が驚いていると、空でカアカアと鎹烏が鳴き出した。
「カァァ!駆ケ足!駆ケ足!!炭治郎、善逸、なまえ!走レ!!共二向カエ次ノ場所マデ!!」
鎹烏が喋るところを見て、善逸が驚いて地面に転がる。
…そういえば見るのは初めてだっけ。
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05 再開と戸惑い