それからしばらくして刀が届いた。
鞘から刀を抜くと、蜂蜜のようなとろりとした色と模様に変わった。

一方の善逸の刀は雷の呼吸の使い手らしい黄色の稲妻のような模様の入った刀に変わった。


少し羨ましくも思いつつ、これが自分のものなのだと思うとそれはそれで愛着をも感じる。


下がスカートの黒の隊服に身を包み、黒のショートブーツを履く。
善逸とお揃いの羽織を上に羽織れば、自分ももう完璧な鬼殺隊の一員だ。


「師範、似合ってますか」
「ああ、似合っとる!」

師範は嬉しそうにニッと笑う。

「それから…これ、忘れてるぞ」
「…あ」


師範が、黄色のリボンを手渡してくれた。
思い出のリボンだ。
ぎゅっと胸に抱いてから、長い黒髪の後ろ部分を1束掴んで結く。


「ありがとうございます、それでは行ってきます!」


善逸より一足先に鎹烏から任務を告げられたのだ。
私は師範と、その後ろで私の様子を盗み見ている善逸に別れを告げる。


「師範、手紙を送りますね」
「楽しみに待っとるぞ」
「はい!じゃあ善逸、また任務で会えたらよろしくね」


くるりと背を向けて、歩き出そうとする。
と、手首を掴まれぐんと私の体が後ろによろける。

何事かと振り返ると善逸がいつもの泣きべそ顔をしていた。


「なまえ…俺なまえが居ないとすぐ死んじゃうよお!何で別々の任務なんだよ!どうするんだよ、誰が俺を守ってくれるんだよおお!!」
「大丈夫、善逸は一人でも強いんだから」
「気休めはよせよおお」


うわああんと私にしがみついて泣き出す始末。
見かねた師範が善逸を引っ張るが中々離れない。


「善逸。私は善逸と生きたいって言ったよね」
「…うん」
「だから絶対に死なない。だから善逸も無理だと思ったら逃げたっていい。泣いたっていい。…けど、死なないでね」


手拭いを取り出して、善逸の涙でぐしゃぐしゃになった顔を拭いてあげる。
善逸はまだ眉尻を下げたままだったが、こくりと頷いてくれた。


「…じゃあ私もう行かないと」


善逸が、名残惜しそうに私から手を離す。
私は善逸のお日様のような綺麗な瞳を覗くように見つめる。
善逸はふいと視線を逸らす。


「…また、な」
「…うん、またね」


何か言いたそうにしている善逸に後ろ髪引かれる思いをしながら、大好きな家に背を向ける。


またこの場所で三人で笑って桃を食べられるような日が来るのだろうか。


切なくなり、いても立っても居られず足早に任務へと向かった。







「此処ヨリ北ノ方角!!小サナ寺ニ鬼ガ巣喰ッテイル!!北!北ニイケェエ!!」

鎹烏が叫ぶ。
ちょっとうるさい。

とにかく私の初任務は北の方角にある小さな寺の鬼退治だ。

歩いては、少し休憩、また歩く…を繰り返してどっぷり日が暮れた頃。
その小さな寺に辿り着いた。


「ここが鬼が巣喰う寺…」


近くの民家に住職が住んでいて、もう何人か小僧が喰われてしまったのだと説明してくれた。


早速私は寺に近付いていく。


寺の中は明らかに空気が、違った。
例えるなら何かが腐敗したような吐き気のする空気。
これが私の感じる"鬼"の空気だ。

思いきり襖を開ける。
鬼が一体、ギョロリとこぼれ落ちそうなほど大きな瞳をこちらに向ける。


「わざわざ喰われに来たのか…ひひひ」


まさか。

私は刀を構える。
鬼が私目掛けて向かってくる。


…早い!


早い上に、鬼の攻撃は恐らく重い。
その証拠に鬼が腕を振り下ろす時の音がぶんと重いものでも思い切り叩きつけるかのような音がする。

攻撃に当たらないようにとにかく動き回って鬼を錯乱させる。

避けつつ、一定の距離を保って…。


ここだ!



「雷の呼吸 肆ノ型 遠雷!!」



稲妻が走る。
軽く足を跳ねさせて頸を斬り落としてとんと着地。
す、と刀を鞘に戻す。
簡単な仕事だったな、と思って振り返る。


ふと、嫌な空気を感じてすんと腰を落とす。
やはりと言うべきか、私の頭があった位置に鬼の鋭い爪が。

あっぶない…。

思わずヒヤリとした。


「ガキぃ…何してやがる!」


まさかのもう一体。
驚きつつ冷静に、距離をとって…。

間合いまで低い体制で攻め込んで、刀を鞘から抜くと同時に!


「伍ノ型!熱界雷!!」


下から上へ斬り上げる。
ことり、ともう一体の鬼の頸も落ちて何とか一息。


何体いるか聞いておけばよかった。
まだいるかも知れない。
住職にもう一度確認しに民家まで行く。



住職に確認すると、鬼は全部で二体だ教え忘れて申し訳ないそして倒してくれてありがとう、とお礼を言われた。
ほっと息つく間もなく、鎹烏が「次ハ西ィィ!」と頭上で飛び回る。


…鬼殺隊ってこんなに大変なの?


鬼を倒したばかりだというのにすぐ向かえと叫び続ける鎹烏に苦笑しつつ、私は次の任務の場所…西へ向かう。



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