いつの間に降っていたのやら、雨粒がアスファルトを濡らしその独特な匂いが立ち込める。

寮までは歩いてすぐだが結構な雨量でその一歩を踏み出すにはなかなか勇気がいる。


「… みょうじ?」


少し後ろから、低く落ち着いた声。
同じクラスの、少し大人びた男の子。轟焦凍くんだ。

「轟くん」
「傘持ってねぇのか?」

轟くんは分厚い雲を見上げ、そこから溢れ落ちてくる雨粒を見てから私に視線を戻した。


「うん…置き傘あったと思ったらなくって」


困ったな、あんまり男の子と喋るのは得意じゃない。
特に轟くんは容姿が良いので少しドキドキしてしまう。


「入るか?」


黒い傘を開いて、何でもないように私に向ける。
私は驚いて彼を見上げて固まった。


「待っててもしょうがねぇぞ。今夜いっぱいは降るらしいからな」
「そう、なんだ…轟くんさえ良ければ…入れてください」


ああ、と少し彼が微笑んだ。
その表情にどきりと胸が大袈裟な音を立てる。

彼の隣に並んで、傘に入れてもらって徒歩数分の寮に向かう。
会話は特にないが、決して居心地が悪いものではなかった。


ちらりと横を見ると傘が少しだけ、私の方に傾いていることに気が付いた。
轟くんの肩が濡れてしまうので、私は慌てて傘を真っ直ぐに持つ。

何も考えていなかったので、轟くんの手に触れてしまい、彼が少し驚いたように私を見た。


「あっ…ご、ごめんなさい。でも、轟くんの肩…濡れちゃうから」
「ああ…別にいい。気にすんな」
「でも…」


轟くんの左の青い瞳が優しい目つきになる。
平気だ、と優しく諭されてしまえばもう私は何も言えなくなってしまった。


すぐに寮に着いて、轟くんは傘を閉じて軽く雨粒を払う。


「ありがとう、轟くん」
「別に…礼を言われるようなことはしてない」
「ううん、濡れずに済んだんだもん、お礼くらい言わせて」


轟くんが少し気まずそうにしてから、真っ直ぐな瞳で私を見つめる。


「好きな奴と一緒にいたかっただけだしな」


それだけ言うと、彼は寮の中へそそくさと入って行く。
私はその言葉の意味を何度も頭の中で反芻してから、ようやく理解して、一人顔を赤くする。


雨の音なんかよりも心臓の音がうるさくて、私は居ても立っても居られず彼の後を追いかけた。



雨の音、恋の音。
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