入学式の日。
セットしてたはずのアラームが鳴らなかった。
髪は上手く纏まらず寝癖で前髪が跳ねていた。
時間が無くて朝ごはんを食べ損ねた。
飛び出すように家から出ると、段差で躓いて転んで膝から血が滲んだ。
電車は少し遅れが出ていて、ようやく乗れたと思ったら満員電車で後ろのおじさんがもぞもぞ動いて不愉快だった。


散々な朝。
せっかくの始まりの入学式。


少し泣きそうになりながら走る。
腕時計を見ればギリギリ間に合うようでホッとした。

前を見ていなかったせいで、曲がり角から人が出てきたことに気が付かずどんと鈍い音を立てぶつかった。


「「ぅわっ」」


衝撃で尻餅をつき、目を瞑る。


「ご、ごめんね!大丈夫?」


少し高めの、男の子の声。
ぶつかったのは私なのに、謝ってくれている。


「こちらこそ、ごめんなさい!」


見上げると、緑色のふわりとした癖っ毛にそばかす、丸い瞳が可愛らしい男の子だ。
ぶつかった感触からすると、見た目に寄らずがっしりとしている。


「…怪我とかしてない?」
「は、はい」


男の子が優しく笑って手を差し出してくれた。
その姿がなんだか眩しくて、今朝から散々で鬱々としていた気持ちが晴れるような感覚に陥る。


「あり、がとう…」


彼は笑顔のまま、私を優しく手を引っ張る。
思ったよりゴツゴツしていて男の子らしい手だった。
去り際に気をつけてね、何て声掛けて。

ああ、これが所謂一目惚れなのね。







それからしばらくして彼の事を体育祭で知った。
緑谷出久くん。
体育祭で頑張っている姿がやっぱり眩しくて、自分でも驚く程彼に目を奪われる。

例えば廊下ですれ違った時。
教室からグラウンドβで体育の授業をしているのが見えた時。
学食でカツ丼を頼んでいるのを見かけた時。


どうしようもなく彼の姿を目で追ってしまう自分がいる。


私の事なんて、彼は覚えてないだろうしそもそも知らないだろう。
だからこの恋心は、小さい小さいこの恋心は。


…そっと、しまっておくはずだった。


今度は廊下の角で、緑谷くんの方からぶつかってきた。
あの時と同じだけど少し違う。
私はまた尻餅をついて、緑谷くんはぶつかってしまったことを気にして顔が真っ青だ。

「だ、大丈夫!?」
「大丈夫、です」

また、手を引っ張り起こしてくれた。


「…あの、みょうじさん…だよね?」


不安そうな声で私を見ながら彼は問う。

「えっ…は、はい」
「入学式の日にぶつかったの、覚えてるかな?」
「お、覚えてるよ!」

緑谷くんは顔を赤らめて、笑った。


「あの…よかったら、お友達になってくれませんか」


あのゴツゴツした男の子の手が、前に出される。
握手を求められているのを理解して、私の顔が熱くなる。


「…はい」


太陽のように眩しい彼を見上げて笑った。




眩い光に魅せられて
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