「「「個性把握テストォ!?」」」
入学式は!?ガイダンスは!?と驚いている様子のお茶子ちゃんに、相澤先生はヒーローになるならそんな悠長な行事に出る時間はないとバッサリ切り捨てる。
「中学の頃からやってるだろ?個性禁止の体力テスト。国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けてる。合理的じゃない」
うーん、私は個性禁止の体力テスト、それはそれで必要だと思ってたけど確かに合理的じゃない…のかなあ?
「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「67m」
「じゃあ個性を使ってやってみろ円から出なきゃ何しても良い」
先生は爆豪くんにボールを渡す。
「んじゃまぁ…死ねえ!!!」
球威に爆風を乗せたボールは、風圧と共に凄い速度で飛んでいく。
おお、すごい。…ていうか、死ね…?
「まずは自分の最大限を知る」
先生の持っている端末からピピと電子音が鳴る。
そして端末に「705.2m」と表示される。
「それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
周りからわあっと歓声が上がる。
「なんだこれ!すげー面白そう!!」
「705mってマジかよ」
「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!!」
と次々に声が上がる。
盛り上がってる中、緑谷くんだけは顔色が悪そうに見える。大丈夫かな…?
「…面白そう、か。ヒーローになる為の三年間そんな腹づもりで過ごす気でいるのか?」
先生の空気が変わり、周りがしんと静まり返る。
「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」
はああああ!?と声が上がる。
除籍処分…!?
それは流石に、と思ったがここは天下の雄英高校ヒーロー科だ。それくらい本気でやりかねない。
身体中にぞわっと鳥肌が立つ。
「生徒の如何は、先生の自由。ようこそこれが雄英高校ヒーロー科だ」
▽
そして始まった個性把握テスト。
第一種目:50m走
ガラスの個性で足元をガラスに変えてつつつっと滑る。
5秒58。
うーん、そこまで早くない!
第二種目:握力
さすがに個性が使えないので普通にやる。
…23キロ?これ普通?
それからも第三種目、第四種目…とつつがなく終わっていき。
第五種目。
「緑谷くんはこのままだとマズいぞ…?」
「体力テスト向きじゃない個性なのかな?」
飯田くんと喋っていると、爆豪くんが突っかかって来る。
「ったりめーだ無個性のザコだぞ!」
「無個性!?彼が入試時、何を成したか知らんのか!?」
「は!?」
会話が噛み合っていない。
私と爆豪くんは別会場だったので入試時の緑谷くんの様子はよく知らない。
…でも確か爆豪くんと緑谷くんは同じ中学だったはず…?
そうこうしているうちに、緑谷くんがボールを投げた。
ピピと電子音がなり、「46m」と表示される。
緑谷くんは心底驚いた様子で振り返る。
「な…今確かに使おうって…」
自分の手を確かめるようにわなわなと見つめる。
何故だかその姿が痛々しくて見ているのが辛くなった。
「個性を消した」
「!?」
「つくづくあの入試は…合理性に欠くよ。お前のような奴も入学できてしまう」
個性を、消した…って先生の個性ってそういう個性なのか!
凄い重宝されるレア個性だ。
その後も何やら二人で話をしているようだがよく聞こえない。
何となく微妙な雰囲気になって隣のお茶子ちゃんに声を掛ける。
「お茶子ちゃん、緑谷くん大丈夫かな?」
「ど、どうだろ…」
「指導を受けていたようだが」
飯田くんが遠くの二人の様子を見ながら言う。
近くに立っていた爆豪くんは除籍宣告だろとか酷いことを言うので私の心の中で辱めの刑に処してあげた。
「あ、投げるみたいだよ!」
緑谷くんが振りかぶったタイミングでみんなに声をかける。
お、と飯田くんとお茶子ちゃんが注目する。
びゅおっ、と風を切る音が聞こえた。
少し遠くにいる私の髪がブワッと靡く。
それほどの風圧。爆豪くんとはまた違った爆風。
私はにんまりと笑った。
やるね、緑谷くん!負けてられないなあ。
「705.3m」
端末に数字が表示される。
「まだ…動けます…!!」
そう言う緑谷くんの人差し指は赤く腫れ上がっていて、痛そうだ。
反対に相澤先生は少し嬉しそうな顔をした。
▽
「んじゃパパッと結果発表」
全種目が終わった。
トータル最下位は除籍…。
私はやれることはやったはず。
この中の誰かが除籍だなんて考えたくない。
せっかくこの雄英でクラスメイトになれたのに。
「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なので一括開示する」
先生が端末のボタンを押すと、空中にランキングが投映された。
…5位かあ。もう少し上狙えたかなあ。
「ちなみに除籍はウソな」
……。
……ええっ!?
「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」
「はーーーーーー!!!!???」
騙されたーーーー!!!!!!
私はがくりと項垂れた。
飯田くん、お茶子ちゃん、緑谷くんも驚いた様子で叫んでいる。
「あんなのウソに決まってますわ」
八百万さんが呆れたように言う。
うう。騙されてしまった。
近くにいた轟くんと目が合う。
「相澤先生、合理的虚偽なんて酷いよね」
「…ウソのつもりだったようには見えなかったけどな、俺には」
轟くんも騙された、ということだろうか。
それともやっぱり先生は本気で除籍するつもりだったが心変わりしたのか。
先生に聞いたところで無駄だろうけど少しモヤモヤとした気持ちが残った。
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05 今私に出来ることを