「…聞いて、ますか?」

みょうじが不安そうに俺を見上げている。

運命の相手の名前が頭上に見える個性。
俺に言わせりゃクソ没個性。


その形の良い唇から聞かされた俺の運命の相手の名前は、みょうじなまえ。
目の前にいるいつも自信のなさそうな顔をした器量の良い女。

そして目の前の女の運命の相手の名前は爆豪勝己。
言わずとも知れた俺の名前だ。


「聞いてるわボケ」


やっと、言葉を発する。
今までのこいつの反応からなんで俺は気付かなかった?
いや、気付けるはずかない。
いつも不安そうな顔してるだけだったもんな、こいつ。
運命の相手がいつもビビってる男ならそりゃそうもなるか。


「…嫌だったんか」
「えっと…そんなことは」


みょうじが困ったような顔をする。
そういう表情されると非常に苛つく。

嫌ではない。なら。
こいつが個性が使えなくなった時の反応はどうだった?
明らかにその"見えてる相手"が大事だと言わんばかりの反応だった。
その証拠に、こいつは焦って俺のとこまで来たじゃねえか。


「じゃあ俺のこと好きなのかよ」


その問いには、思い切り顔を赤くして。
目を俺から逸らす。
その反応で、大体分かってしまう。


「てめェはどうしたいんだよ」


大きな揺れる瞳が、俺を見上げていた。
どう、したい。小さく唇が俺の言葉を反芻する。


「わ、私は…」


困ったような笑みをする。


「今のままで、満足です…」


俺はそれに対してそうかよ、としか返せなかった。


「てめェの個性は分かった。運命の相手だってのが見えてんのは否定しねェ。けど俺はそう言う運命だなんだっつーのは信じてねえ。」


みょうじは分かりやすく目を大きく見開く。
そして、はい!と笑って答えた。


「私もです!自分の個性ですけど100%だとは思っていません」
「…けどてめェのことは気に入ってる。みょうじの改良するコスチュームもアイテムも使いやすいからな」
「私も…爆豪くんのことは一番信用も信頼もしています」


みょうじがここまで真っ直ぐ俺を見て笑顔を見せてくれたのは初めてだった。

その笑顔に、俺は少しの優越感を感じる。
信用、信頼。
けど俺にはもうそこで終わらせる気はとっくになかった。
俺の気持ち理解してたし、こいつも俺のことが好きなら何の迷いがある?何がそんなに不安なのか分からないがいつも不安そうにしてるこいつが腹立たしい。


だから、踏み込んでやる。


ずいと一歩近付いて、じっと見つめる。
そうするとみょうじの顔はすぐに赤くなった。


「なァ…てめェは誰にでもそんな顔真っ赤にすんのかよ」
「えっ、あのっ、これ…は…」

わたわたと慌てる。

「ば、爆豪くんの時だけです…」

控えめな声でそう呟く。

「上等だ」

丸い瞳が揺れる。
不安そうな形の良い唇に、噛み付く。


「…〜〜っ!!?」


みょうじの顔は今まで見たことのないくらい真っ赤で、驚いた表情で口元を押さえていた。
わなわなと信じられないと言う顔で俺を見上げている。
色気のねえ作業着姿のくせに、クソほど唆る。


「じゃあな、なまえ」


工房を出る。
後ろから「え、ま、待って爆豪くん」と声が聞こえたが無視した。
勝手に一人で悩んでろクソ鈍感女。

俺のことで頭いっぱいにすりゃいい。



19 俺のことだけ考えろ
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