休み時間。
爆豪くんがわざわざ私のクラスまで来てくれた。
昨日ぶつかった子を探しに行く。
二人で普通科の教室を見て周る。
普通科の人たちは爆豪くんにビビっていた。
私も少し前はそっち側だったんだよなあも苦笑しながらも、昨日の子を探す。
「…あ、あの人です」
中肉中背の男の子。
席に座って次の授業の用意をしているようだ。
「ど、どうしましょうか…」
「んなの簡単だ。…おいてめェ、あそこにいる奴呼んで来い」
近くを通りがかった生徒に声をかけガンを飛ばしつつ命令する。
私は言い方!!と思いながらあわあわと変な動きをする。
命令された子はひいっと声を上げると逃げるように教室の中へ入り、目的の子を呼んできてくれた。
「あの…僕に何か…?」
「"何か"じゃねェ。昨日こいつとぶつかってそん時個性発動させだろうが!」
「…あっ!まさか」
男の子はびっくりしたように私を見る。
そして数秒、何か考えるようなそぶりを見せた。
「確かに、個性発動してるな…ごめん」
「いつになったらこいつの個性使えるようになんだ?アア?」
ずいずい迫って脅すように話す爆豪くん。
見ているだけで正直怖い。
「ひっ…ぼ、僕の個性は、触った分だけ人の個性の能力を弱めるだけで…使えなくなってるわけではないと思う」
爆豪くんに睨まれてしどろもどろになりながら説明してくれる。
「ヒーロー向きの個性じゃねェか。なんで普通科にいんだよ」
「そうなんだけどね…僕の個性、発動すると最大3日も使えなくなるんだ。ヒーロー科の入試に落ちて普通科に入った口だよ」
自虐の混じった口調で男の子は言った。
爆豪くんは、なるほどそりゃ使えねぇな、と軽々と酷いことを口にする。
ば、爆豪くん…と嗜めるように控えめに声をかけるが普通科の男の子は気にしてないと笑ってくれた。
「ちなみに個性受けた相手も最大3日間個性が弱まるんだ。君にはほんの一瞬ぶつかっただけだから使えないわけじゃないんだ。それどころかすぐ戻ると思うけど…」
「なるほど…そうだったんですね、安心しました」
私はぺこりとお辞儀してお礼を言う。
詳細も分かったことですし帰りましょう、と爆豪くんに促す。
歩き出そうとした時、彼の足が止まった。
「…おい。」
爆豪くんは普通科の男の子に振り返って声を掛ける。
男の子もびっくりして振り返った。
「普通科のクソぬるま湯で満足してんなら良いけどな…ヒーロー科目指すってンなら本気でやれや。」
爆豪くんは普通科の男の子をしっかり見てそう言った。
男の子はハッとしたように彼を見る。
そして大きく頷いた。
「行くぞみょうじ」
ふん、と呟いてもう一度踵を返す。
私は慌てて彼の後を追う。
個性が使えなくなってるわけではない。
でも彼の頭上には私の名前はまだ見えない。
(あれ…)
通り過ぎる人たちの頭上には名前が見える人がいた。
個性が戻ってきてる…。
けれど前を歩く爆豪くんの頭上には、見えない。
「…」
もしこのまま二人の名前が見えなくなったら。
なんでこんなことを考えてしまうんだろう。
個性が消えるはずはない。
3日も経てばまた名前が浮かぶはず。
…それなのに寂しい気持ちが募る。
私は彼の背中を必死で見つめた。
それでも私の名前は少しも見えなかった。
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17 早く安心させて