「かっちゃん!!」

共同スペースで寛いでいた所、ムカつく野郎の俺を呼ぶ声が耳に入った。

あ?何気安く呼んどんだクソナード、と言おうと思ったがどこか慌ててるクソデクに違和感を感じた。

「んだよ」
「あっ、えっと、あの子…かっちゃんの合同授業の相手の女の子!かっちゃんに会いに来たって寮の前に居て…それで…」

合同授業の相手。
つまりそれはみょうじのことだろう。
しかし何故だ?今は別にアイテムの修繕は頼んでないし、わざわざこんな時間に何の用だ?


思案していると、周りが告白!?何何!?良い雰囲気な訳?と謎の解釈を繰り広げていく。
何か突っ込まれないうちに寮の外へ行った方が賢明そうだ。

デクが何か言いたそうにこちらを見ていたが一瞥だけして外に出る。


少し遠くに、ココア色のウェーブがかった癖っ毛の長髪の後ろ姿が所在なさ気に立っているのが見えた。


「…おい」


みょうじはびくりと肩を震わせた。
ゆっくりと振り向くと、その眉尻は思いっきり下がっていて。

「どうした」
「あ、あの…個性が…」
「ハ?個性??」

びく、とまた身体を震わせる。
それから何か迷っているかのように睫毛が揺れる。
そして意を決したように口を開いた。


「私の個性が、見えなく、なって…!」


個性、そういえばこいつの個性の話は聞いたことがなかった。


「お前の個性何だ」


今度はぎくり、とでも効果音が出そうな肩の揺れ方だった。


「…しょうもない個性ですが笑わないでくれますか?」


みょうじは顔を真っ赤に染めて、今にも泣き出しそうな瞳で俺を見上げる。


「笑わねえ」


ごく、と一回固唾を飲む。
形の良い唇が小さく開く。
丸く大きな瞳が揺れていた。


「運命の相手の名前が…見える個性です…」


俺は流石にずっこけそうになった。
なんだその個性は。
聞いたこともねえ。

「…ハ、で、その個性が見えなくなったってか?」

みょうじは小さく頷いた。
個性が見えなくなって驚いてここまで来てしまったらしい。
しかし何だって俺のところに。


「自分の運命の相手が見えてたんか」


その質問に、もともと大きな瞳がじわじわと見開かれ、思いっきり顔を赤くする。

無言の肯定。


「俺の運命の相手とやらも見えてたんか」


少し視線を彷徨わせ、戸惑いながら赤い顔で頷く。

その様子を見てため息をつく。
自分に運命の相手が居るとは思えねえが…。


「個性がなくなることはねえ。…と、思う。考えられるのは相澤先生みたいな個性を消す個性を持った奴に消された可能性だ」
「個性を消す個性…」


みょうじは困った顔をしていた。
別に見えなくてもいいような個性のくせにそこまで悩むか?


「何かねェのかよ、触られたとか、必要に見られたとか!」
「えっと、触られてもいないし見られてもいないかと……あ、」


何か思い当たる節があったのか最後に小さく声を漏らした。


「んだよ」
「あの、今日の放課後、人とぶつかりました。軽く…ですけど…」
「それじゃねェのか」
「ええっ、でも本当、軽くぶつかっただけで…」

軽くだろうがなんだろうが、ぶつかって個性が発動したらそれだろ。

「ぶつかった奴の特徴は覚えてるか?」
「えっと…はい、あと普通科の1年生の子だと思います。普通科の教室の前でぶつかったので…」
「じゃ、明日確かめに行くぞ」
「えっ…と」

こいつがそんなに不安そうにしている意味が分からない。ンな没個性どうでもいいと思った。

けど反応を見るからに、こいつにとって自分の運命の相手が大事な奴なのだろう。
それが見えなくなって不安になってる。


少し心臓に違和感を感じた。
ついでに、イラつきとムカつきも。


明日、ぶつかった奴の確認をする。
そして俺の運命の相手とやらも聞き出してやる。

にわかには信じがたいがなんとなく気になってしまったから。



16 ひとつ知るたびに
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