あれから爆豪くんは、コスチュームやサポートアイテムに不備が出ると私の元へやって来て、あれこれ注文しては私が直すようになった。

爆豪くんのコスチュームやサポートアイテムを弄っているだけで勉強になるし、何より楽しい。


けれども私の『運命の相手の名前が見える』個性のせいで、爆豪くんと会うたびドギマギしてしまう自分がいる。


私はとっくに爆豪くんに対して怖いとかそういうイメージを持っていない。
本当に彼が運命の相手のなら、私がその相手の爆豪くんにとても申し訳なく思う。

たまたま雄英に入れただけで、誰かの指図を受けなければ中々アイテムを作り出すことができない落ちこぼれのサポート科の私が相手では…。

彼は私のことをどう思っているかは分からないが、万が一にでもそういう雰囲気になってしまったら…?

恐れ多すぎてそれ以上考えるのはやめた。


「ふぅ…さて、と」


久しぶりにゆっくりした放課後だったので、いらないことを考えてしまった。

工房で自作のサポートアイテムを生成していた私は、帰り支度を整えて、工房を出た。


いつもの廊下を歩いていると、目の前から来た人と軽く肩がぶつかった。
お互いに軽く謝って通り過ぎる。


今日の夜ご飯は何かなー?


そんなことを考えながら学校を出て、徒歩数分の下校。
寮に戻り自室に入ると、制服から私服へ着替える。
ふと目に鏡が映った。
何となく気になり、じっと凝視する。


…どこか違和感。


「あ、れ…?」


どれだけ個性を発動させても、私の頭上には名前が浮かんでこない。


何故?どうして?


いつも浮かんでいたじゃないか。
別にあんな個性、無個性と何も変わらない。
…はずなのに、何故か心のどこかで落胆している自分がいた。

彼の名前を見ると、安心していた自分がいたんだ。

ついこの間まで何も浮かんでいなかったくせに。
初めて見たときは嫌だと、ありえないと思っていたくせに。


どうして今はこんなに、彼の名前が見えないことがこんなにも寂しく感じるんだろう。


私は思わず、駆け出していた。
もうすぐ夕食の時間だと言うのにその足は寮を出て、私の住む寮と似ているけれど全く違う寮へと向かっていた。


「A組の、寮…」


目の前に聳え立つ、ヒーロー科A組の寮。
何故こんなところに来てしまったのか。
来たって無駄なのに。会いに行く勇気なんて無いのに…。


「あの…どうかしましたか?」


人の声に驚いてびくりと肩を揺らした。
振り向くと、緑色の癖っ毛に、そばかす。くりっとした瞳が私を見ていた。
この子は確か…ええっと…。


あ!発目さんのペア相手だった緑谷くんだ。


「あっ、よ、用ってほどでも…ないんですけど…ば、爆豪くんに…」
「えっ?かっちゃん!?」


かっ、ちゃん?
私は首を傾げた。
あ、ああ、爆豪勝己だからかっちゃん、なのかな?
そんな風に呼ぶなんて仲がいいんだなあ。


「えっと…よ、呼んでくるよ!待ってて!」
「えっ、あっ!」


呼ばなくても良いと言いそびれ、緑谷くんは走って寮の中に入って行ってしまった。


ど、どうしよう。



15 見えなくなって
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