「出来、たあ…!」
爆豪くんのコスチュームを掲げて、にこりと笑う。
達成感で浮かれる。
慌てて時計を見る。
最終調整に少し手間取り、放課後になって15分ほど経ってしまっていた。
コスチュームを着て自主トレをすると言っていた爆豪くんの時間を奪ってしまったことに申し訳なさを感じる。
急いで渡しに行かなくては。
紙袋にコスチュームを入れて、工房を出ようとした時だった。
がらり、と工房のドアが開いた。
最初に目に入り込んできたのは彼の頭上に浮いている私の名前だった。
あ、と思った。
「ば、爆豪…くん…ご、ごめんなさい!遅くなってしまって」
「あ?…お前マジで作り終えたのかよ」
「えっ?」
私の顔と、私の持つ紙袋を交互に見て、驚いた顔を隠せずにいる。
どう言うことだろう、と首を傾げた。
「パワーローダー先生に聞いた。俺のコスチュームの強度上げるために作り直してるってな。それ聞いたときは今日中は無理だと思ったわ」
爆豪くんはニヤリと笑った。
爆豪くんが少し嬉しそうな顔するのを初めて見た。
「あっ、えっ…」
彼のそんな表情に、私はドギマギとしてしまう。
悪戯っぽいその表情に目が離せなくなっている。
「てめェの名前忘れたからもう一度聞かせろ」
…ええ。
身体の力が少し抜ける。
「みょうじ、なまえです」
私が名乗ると、爆豪くんはそうか、と呟いて私の瞳をじっと見つめる。
私も目が離せずに見つめ返す。
初めてその赤い瞳が、綺麗だと思った。
「…みょうじ。これからも頼むわ。ただ、飯は食え。睡眠も取れ。わァったな!!」
「は、は、はい…っ!」
ぐい、と詰め寄られて私は身を縮こませた。
その反動か、一瞬目の前が白んでくらりとする。
何とか足を踏ん張る。
どうにかそのまま倒れずに済んだ。
「大丈夫かよ」
「あっ、は、はい…っ」
いつの間にか爆豪くんが私の腕を掴んでいた。
びっくりして、爆豪を見る。
言わんこっちゃねェ、と爆豪くんは舌打ちをする。
「俺はもう行く。てめェも寮に帰って休んどけ!!」
何故か怒鳴られた。
そして私の名前を頭上に浮かべた彼は、怒っているような背中で去って行った。
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12 ようやく名前を