いつものコスチュームに着替えて、始めに気付いたのは靴だった。
明らかに軽くなっている。サイズも両足フィットしている。

次に戦っているときに少しもたつきを感じていた肩まわりに何の違和感もなくなっていることに気付き、手のひらの保温機能が前よりも良くなっていることにも気が付いた頃。

あの女の自信なさげな顔を思い出していた。


「…ハッ、やれンじゃねぇか」


良い仕事してる、と思った。
技術者ではない自分ではそれがどれほどのものかは分からない。
だが、実際格段に戦闘がしやすくなった。
他にも何処か改良を加えられているだろうが分からない。
分からないからこそ、あの女の底が知れずに少し鳥肌が立った。

いつもより明らかに身体が動かしやすい。
自分ですら気付いていなかった改良点をいつの間にか全てクリアされている感覚だ。


その日の戦闘訓練は、ぶっちぎりで1位だった自信がある。


あの女のは未だに保健室のベッドで寝ているのだろうか。
恐らくこのコスチュームを作り上げるために徹夜したのだろう。


授業が終わると同時に保健室へ向かった。


保健室にはいつもリカバリーガールの手伝いをして保健室に入り浸っている女子生徒がいた。
サポート科の女の様子を見に来たと言うと少し驚いた顔をした。

そこのベッドで寝てると教えられ、しばらくその寝顔を見ていると、ぴくりと目蓋が震えた。

「ん、ぅ…」

そうして、少し眩しそうにそっと目を開ける。


「…おい」


俺が声をかけると、体が強張り、一気に目を見開いてそれからすぐに伏し目がちになる。
一瞬で全てを悟ったようだ。


「てめェは何回ぶっ倒りゃ気が済むんだ?」


サポート女は小さい声でごめんなさい、と呟いた。
俺は分からない程度にため息ついた。

目を覚ました事に気がついた保健室にいた女が、何度か状態を見て説明をする。
もう安心だから俺に帰れと命令してきやがった。


時間も時間だし大人しく教室に戻ることにした。
帰り際に、コスチュームのことを聞いてみる。


「コスチューム、改良したんか」
「勝手に、ごめんなさい…もし使い辛かったら戻します」


あんだけ良い改良しているにもかかわらず、酷く不安気な瞳で俺を見た。
申し訳ないと目で訴えかけているような。
どこまでも自分に自信のない奴だ。


「いや、いい。やりやすくなった」


俺はそれだけ伝えると保健室を出る。
アイツの態度はどこかデクを彷彿とさせて俺を少しイラつかせやがる。


「お」


紅白頭が保健室に向かって歩いてきていた。

「…何してんだ舐めプ野郎」
「別に、関係ねえだろ」

そのまま保健室に入っていく。
その後ろ姿は少し嬉しそうに見えた。


そう言えばアホ面が、轟が白衣の天使とどうのこうのとか何とか言ってたな。


ああ、保健室のあの女…


なるほど、あの女に用だったのか。
本当にとことんクソ舐めプ野郎だ。
女と付き合いながらヒーロー目指すなんざアホくせえ。

そう思った時に何故かあのサポート科の女の眉尻を下げた表情が脳裏に過ぎる。

チッ、と舌打ちして教室へ戻った。



10 うぜえやつ
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