田中くんには丁重にお断りを入れた。
私の気持ちは決まっていた。


彼が真っ直ぐに告白してくれたお陰だ。


初めて見かけて気になったこと。
保健室で話して、少し天然なのを知ったこと。
私の悩みである個性の話を真剣に聞いてくれたこと。

個性のコントロールも、苦手だった人付き合いを頑張ろうと思えたのも全部全部、轟くんが居たから。

轟くんを好きになったから。



「…轟くん」


A組の教室から中を覗くと、轟くん一人だけだった。
一番後ろの席の前で佇む彼が、何処か弱々しく見えた。


「みょうじ?」


轟くんが私の顔を見て、左右で色の違う綺麗な目を見開いた。
その様子でさえああ好きだなあという気持ちで溢れる。


「さっきの子…田中くんに告白されて…私も素直になりたいって思ったの」


轟くんを真っ直ぐ見据える。
轟くんも、私の意思を汲み取ってくれたのか真っ直ぐ居直って静かに私を見る。その瞳は少し揺らいでいるように見えた。


「私は轟くんが好きです」


身体中が熱い。
ふわふわとしていて現実味がない。本当にこれは現実なのだろうかと思ってしまうほど。

真っ直ぐ轟くんを見つめる。
本当は轟くんの目を見るのが怖い。
逸らされるんじゃないか、拒絶されてしまうんじゃないか。
さっき八百万さんと一緒にいたのは付き合っているからではないか。
嫌な想像ばかりしてしまう。
自分に自信がないから。


「轟くんがヒーローを目指していて、恋人なんて作る暇がないってことも分かってる。…私の気持ちだけでも知ってて欲しかったの…ごめんなさい、自分勝手で」


そこまで言って、ようやく目を逸らした。
言いたいことを言い切ったことで、緊張が一瞬解ける。


「みょうじ」


腕を引かれる。
昨日も似たようなことがあったな、なんて一瞬思って、次の瞬間には私の頬が轟くんの胸板に触れた。

ふわと石鹸のような優しい匂いとどこか懐かしい香りが鼻腔をくすぐる。


…抱きしめられている。


そんな簡単な事実にすら気付くのに少しの時間が掛かって、頬に熱が集まるのと同時に無意識に個性を発動させていた。
一瞬で轟くんと私以外の世界が花で埋め尽くされる。


「…えっ」


いつもは私の後ろにだけ咲いてるはずの個性の花が、私と轟くんを包み込むように舞っている。
すごい花の数だ。こんなにたくさん花が咲いているのは見たことがない。


轟くんも少し驚いたのか私から手を離す。


パッと轟くんの後ろの花は消える。
しかし私の背後の花は未だ咲き乱れている。


「どういうこと?」
「…もしかして」


轟くんが、もう一度私を抱き寄せる。
「ひゃっ!?」
思わず声を出してしまう。
そう何度も抱きしめられると、心臓が持たない。


「とっ、轟くん!?」


先程と同様に二人を囲むように花が咲いた。

「やっぱり… みょうじ、お前の個性他人にも使えるようになってんじゃねえのか?」
「えっ」

試しにもう一度轟くんが私から離れる。
轟くんの背後の花は跡形もなく消えた。


(えっと…つまり、轟くんは私と同じ感情、ってこと?)


私の心臓がどくどくとさらに早く大きく音を立てる。


「みょうじ」
「…はい」


轟くんが初めて見るほど優しく穏やかに微笑んだ。
私はそれだけで胸がぎゅうっと苦しくなる。


「俺も、みょうじが好きだ。」


俺に触れてた時に出たお前の個性がその証拠だ、と轟くんが少し照れ臭そうに言う。


ああ、轟くんはなんてすごいんだろう。敵わないなあ。


轟くんが私を優しく見つめるだけでこんなに心が満たされて暖かくなっていく。
どちらかともなくもう一度抱き合った。


花はいつまでも咲いていて、枯れそうにない。



17 お互いに気付いた恋心
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