俺は何であんな事をしたんだろうか。
つい先程緑谷と教室を出ようとドアを開けるとみょうじと男子生徒が並んで歩いて行った。
それを見た瞬間、心臓がおかしくなった。
『みょうじさん、あの…これから、一緒に』
『うん?』
その男子生徒が何を言わんとしてるかは、何となく察した。
みょうじの無垢な瞳が俺以外の男に向けられる。
形容し難いほど嫌な気持ちが溢れて、気がついたときにはみょうじの手首を掴んでいた。
驚いたみょうじの瞳が俺を見て少しずつ大きくなっていく。
指が簡単に一周してしまうほど細い手首だった。
力を込めたら折れてしまいそうなくらい脆くて…。
「轟くん…大丈夫?」
ハッとして顔を上げる。
気がつくと寮の前まで来ていた。
緑谷が心配そうな顔で俺を見上げている。
「あ、ああ…」
自分が信じられなくて、少しぼんやりする。
まだみょうじの手首の感触が手のひらから離れない。
「緑谷…俺は何であんなことしたんだと思う」
緑谷は目を大きく見開いた。
少し考えて、躊躇いがちに口を開く。
「轟くんにとって、みょうじさんが大切な人だから…じゃないかな?」
「大切…」
言われて、気付く。
みょうじを見ると安心するのも、心臓がおかしくなりそうになるのも、男といて腹が立つのも。
「俺はみょうじのこと好きだったのか」
緑谷が驚いた顔をしたかと思うと、今度は顔を真っ赤にしてこくこくと大きく頷いている。
「さっきの人がみょうじさんを誘おうとしてヤキモチ妬いたんだよ、轟くん」
すとん、と腑に落ちた。
好き。
…そうだったのか。
今まで人を好きになったことなんてなかった。
お母さんのこと、親父のこと、個性のこと…ヒーローになるという強い意志。
そこに恋愛なんて入り込む隙間は一切無かったはずだ。
なのに、いつの間にかみょうじは俺の心の中にすうっと入り込んでその真ん中に居座っていた。
控えめに笑うみょうじが好きだ。
怪我をすると心配そうな顔をするみょうじが好きだ。
手当てをする時の優しくて柔らかい小さいみょうじの手が好きだ。
話をしていると後ろに咲かせている花も好きだ。みょうじに似合っていて可愛らしい。
いつの間に、俺の中にはこんなにもみょうじがいる。
他の誰かに取られたくないと、今ならはっきり言える。
けど、みょうじはどう思っているんだろう?
みょうじが憧れるヒーロー科の中の一人なのではないだろうか。
俺は周りが思っているほど自分に自信があるわけではない。
話をするのも得意じゃない。
こんな俺といても楽しくないかもしれない。
みょうじへの気持ちに気付けば気付くほど、俺みたいなつまらない奴はみょうじに相応しくない気がした。
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13 気付いた感情は大きすぎて