休み時間。
保健室へ向かう。
休み時間の度に行ってるわけではないが、ヒーロー科A組B組のヒーロー基礎学の授業があった後の休み時間は怪我人が増えるので少しでもお手伝いできたら、と保健室で待機している。
A組のヒーロー基礎学が終わった時間。
いつも通り保健室へ向かう。
「あ」
轟くんの姿を見つける。
「みょうじ」
嬉しくてつい出そうになる個性を集中して出さないようにコントロールする。
すぐ後ろに八百万さんが立っていることに気付いて、何だかぞわりと嫌な気持ちになった。
八百万さんが二の腕を抑えているのが見え、一瞬にしてそんな気持ちが吹き飛ぶ。
「…轟くんと八百万さん?…!もしかして怪我?」
大した怪我ではないと言う八百万さんの二の腕を見ると、今はもう出血は止まりかけているが切り傷が出来ている。
「確かに深くは傷ついてないみたいだけど、傷が残ったら大変だからね。リカバリーガールに見てもらおうね」
女の子の…特にこんな綺麗で美人な八百万さんの肌に跡が残ったら大変だ。
私は保健室のドアを開け、二人を先に入れてからリカバリーガールを呼ぶ。
保健室の奥にいたリカバリーガールはゆったりとした足取りではいはいとやって来て、すぐに八百万さんの怪我の治癒をしてくれた。
その様子を私と轟くんが少し遠くから見守る。
八百万さんの怪我で轟くんが付き添っているということは、轟くんが八百万さんに怪我をさせてしまったか、もしかしたらお付き合いしているからか…
嫌な気持ちがどろりどろりと湧き上がる。
ダメだ、こんな気持ちになっては。
個性が出てしまいそうになるのをぐっと堪える。
きっと怪我をさせてしまったからに違いない。
「あの怪我は…その、轟くんが?」
こんなこと聞いていいのだろうか。
もし怪我をさせてしまったんだとしたら答えにくいだろう。
「ああ。」
轟くんは、自分の個性で怪我させてしまったから付き添って来たと説明してくれた。
「そっか、それで付き添いに…優しいね、轟くん」
私は心底ホッとした。
こんな気持ち、抱いてはいけないのに。
心の底に閉まっておかなければいけないのに。
(…いいなあ、ヒーロー科)
同じクラスで一緒に授業を受けられる。
轟くんが戦っている格好良い姿を見る事ができる。
…怪我をしたら、轟くんに付き添って貰える…。
嫌な子だな、私って。
リカバリーガールの治癒が終わった八百万さんの二の腕を、念のため消毒液を吹きかける。
看護師を目指している私が、怪我をした子が羨ましいだなんて。
ここに立っているのが急に恥ずかしくなり、逃げ出したくなった。
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09 これ以上私を嫌な子にさせないで