「大丈夫か、八百万」
戦闘訓練でのチーム戦。
味方に障子、葉隠。
敵に上鳴、峰田、八百万。
障子に索敵してもらい、葉隠が敵の位置を確認。
上鳴の攻撃をかわして峰田のもぎもぎを氷で封じつつ
範囲攻撃で氷結を出して勝利…となるはずだった。
せいぜい動きを封じる程度の氷結だったはずだが、直前に放電して放心状態になって足元のおぼつかない上鳴を氷結から守ろうとした八百万に氷柱と化した氷結が刺さってしまったらしい。
轟チームWINと声がかかり、足元を凍らせたため動けなくなったであろう上鳴たちの氷を溶かそうと見に行くと、二の腕から血を流している八百万、その隣にウェイウェイと使いものにならなくなった上鳴がいた。
「…俺の氷結か?」
「…ええ、でも気になさらないで下さい。私の反応が遅れただけですわ」
「そうはいかねえだろ。」
「轟少年、念のため保健室に連れて行ってやってくれ。」
オールマイトがやって来て、八百万の怪我を見て言う。
俺は無言で頷いて、八百万に立てるか聞く。
大丈夫ですのに、と八百万は控えめに笑った。
後ろでは上鳴がウェーイと不思議な動きを繰り返している。
「行くぞ、八百万」
「え、ええ」
八百万を連れて保健室へ向かう。
八百万とは席は近いが特別話すような仲でもないので二人無言で歩く。
「あ」
保健室の前に着くと、今まさに保健室に入ろうとして戸に手をかけている人物がいた。
その姿を見つけると、俺は何故だか少し心が落ち着く。
「みょうじ」
「…轟くんと八百万さん?…!もしかして怪我?」
一瞬怪訝そうにして、それから八百万を見て心配そうな表情になる。
「ええ…大した怪我ではないのですが」
「確かに深くは傷ついてないみたいだけど、傷が残ったら大変だからね。リカバリーガールに見てもらおうね」
みょうじが大丈夫だよ、と優しく八百万に笑いかけた。
保健室のドアを開けて、入るように促す。
八百万と俺が保健室に入ると、その後から入ってきたみょうじがぱたぱたと奥へ向かう。
「リカバリーガール、怪我人です!」
奥にいたらしいリカバリーガールがゆっくりとした動作でやって来た。
「はいはい。見せてみな」
八百万を椅子に座らせ、リカバリーガールが治療する。
その様子を俺とみょうじが少し遠くから見守る。
「あの怪我は…その、轟くんが?」
少し気まずそうにもじもじと、俺の様子を伺うように聞いてくる。
上目遣いのようになってる視線にどきりとする。
「ああ。」
「そっか、それで付き添いに…優しいね、轟くん」
優しい。
そんなことはないと、思う。
自分の個性でクラスメイトが怪我をしたから付き添っているだけだし、保健室に来ればみょうじに会える。
みょうじを一目見たい。
そんな邪とも言える気持ちがなかったとは言い切れない。
だから優しいと言われ少し罪悪感を感じた。
リカバリーガールの処置を終えた八百万の二の腕を、みょうじが念のためと消毒液を吹きかけた。
毎度咲かせていた花の見当たらないその背中はいつもより小さく見えた。
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08 少しの罪悪感