僕…緑谷出久は、気付いてしまった。
友達の轟くんが…恋をしてるんじゃないか、ということに。
「緑谷、今日も学食か?」
「うん。轟くんも行こう!」
「ああ。」
轟くんと飯田くんと共に食堂へ向かう。
「俺はビーフシチューにしてくる!」
じゃっ!と飯田くんはビーフシチューの列に並びにいく。
僕は何にしようか。毎日カツ丼では栄養も偏ってしまうし、たまには別のでもいいな。何食べてもきっとクックヒーロー、ランチラッシュのご飯は美味しい。
「轟くんは何にする?」
「…蕎麦。あったかくねえやつ。」
「好きだもんね、蕎麦」
と、轟くんがふいにキョロキョロと辺りを見渡す。
ふと一点に視線を集中させる。
… みょうじさんだ。
轟くんのみょうじさんを見つめる目は、すごく優しい。
前は冷たい雰囲気だった轟くんだけど、今ではこんなに柔らかい表情をするようになった。
轟くんは、緑谷が俺の凝り固まった価値観をぶん殴ってくれたお陰だ。なんて言うけど僕は大したことはしていない。
優しくなった表情は、きっとみょうじさんのお陰だと思う。
「轟くん。みょうじさんもお昼に誘ってみる?」
何となく、そう聞いてみると轟くんは大きく目を見開いた。
それからふいと視線を逸らして、いやいい。と言う。
「そっか。みょうじさんのお友達も急に僕たちと食べたら困っちゃうかもしれないもんね」
「…そう、だな」
轟くんは再度みょうじさんを見つめると、蕎麦の列へ並んで行った。
うーん、余計なことを言ってしまったかな?
「むっ、緑谷くん!まだ買ってなかったのか?早く行かないと時間が無くなるぞ!席は俺が取っておこう」
ビーフシチューとパンが乗ったお盆を手に飯田くんが戻ってきた。
「あっごめん…すぐ買ってくるね!」
僕は結局いつも通りカツ丼を買った。
美味しいから良いんだけどね。
席に着くと二人は食べるのを待っていてくれていたらしく少し申し訳なく思いながら、皆でいただきますをする。
蕎麦を綺麗な動作で食べる轟くんを盗み見る。
その視線の先には、みょうじさん。
(轟くん、絶対みょうじさんのこと好きだよなあ…)
思わず苦笑してしまう。轟くんがこんなに分かりやすかったとは。
みょうじさんも轟くんが好きなことを僕は知っている。
轟くんを見ると花を咲かせてしまうからすぐに気付いた。
お互い好き合っていることには気付いてなさそうだ。
何しろ科が違うのでそうそう会う機会がない。
保健室に行けばみょうじさんに会えるけど、運動神経も反射神経も良い轟くんはそんなに怪我をしない。
なにか二人にきっかけがあると良いんだけどな。
大切な友達の恋愛だ。
できるだけ応援してあげよう。と心に誓った。
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07 その視線の先にはいつも