それから私は、友達や先生と話している時に個性が出そうになると意識を集中するように努めた。
最初は個性を消すまで時間が掛かっていたが、段々とコツを覚えてパッと個性を消すことが出来るようになっていた。
たまに忘れたり嬉しすぎたり悲しすぎると時間は掛かるが、これはもう仕方ない。
少しのことで個性が出るのは少なくなった…と思う。
昔個性をコントロールしようとした時は、嬉しくならないように悲しまないように感情を殺していた。
今はとにかく意識を集中させてコントロールする。感情を殺すのとは似てるようで、ちょっと違う。
個性は個性。
感情は感情。
意識させれば喜怒哀楽の個性表現は消えるらしい。
長年気付かずここまで来たせいで私は個性のコントロールがすごく下手なだけなのだ。
さて次の授業は何だったか、と考えていると友達が慌てて私に声をかけてくる。
「ちょっと、なまえ!」
「どうしたの?」
その形相に少しビックリして後退りする。
「轟くん!なまえのこと呼んでる!ちょっと、どういうことなのー?!」
キャーキャー言いながら友達が教室のドア付近を指差す。
見ると、ドアから少し居心地悪そうにこちらの様子を伺っている轟くんが立っていた。
「ただの友達だよ」
テンションの上がってしまった友人に呆れながらくすりと笑う。
とりあえず待たせては悪いので、轟くんの元へ小走りで向かう。
私がやってくるのが見えた轟くんの口角が僅かに上がった。
「轟くん!どうしたの?」
ドアの近くでは邪魔になるので廊下の隅に移動しながら会話をする。
「あれからどうしたかと思って…悪ィ、なんか注目浴びてた」
何故注目されてるのか分からない、という感じで轟くんが少し首を傾げる。
(轟くんが格好良くて、体育祭でもすごく目立ってたからだよ…)
とは言えない。
けどそんな様子がおかしくてくすくす笑ってしまう。
轟くんは更に「???」と首を傾げた。
「あっ、笑っちゃってごめんね。ヒーロー科の人って、普通科の憧れだからみんなビックリしちゃっただけだよ」
「…そうなのか」
「それで…個性のコントロールなんだけどね」
私は今頑張っていること、概ね上手くいっていることを轟くんに伝える。
轟くんは相変わらず静かに私の話を聞いてくれる。
「良かったな。コツ、掴めてきてる」
「うん!」
轟くんに褒められるとすごく嬉しい。
私は思わずパッと花を咲かせる。
「!!」
気付いてすぐに集中。すぐに消えていった。
「…大変そうだな、それ」
珍しく轟くんがくつくつと笑った。
「ううー恥ずかしい〜」
熱の上がってしまった両頬を抑える。
他の人の前ではこんなに個性は発動しない。
轟くんが…好きな人が目の前にいると、どうしても感情が昂って個性のコントロールが難しくなってしまう。
もう、ずるいなぁ…。
「素直なのがみょうじの良いとこだしな」
前も似たようなことを言ってくれたっけ。
すぐ嬉しくなるようなことを言わないでほしい。
何とか自分を保って、個性が出ないように努める。
「轟くん、今日放課後は自主練?」
少し気まずいので、別の話題を探す。
「ああ。いつも通りな。」
「そっか…怪我に気をつけてね」
にこ、と笑う。
轟くんも優しい眼差しで私に頷いてくれる。
ああ、だからそんな顔して私を見ないで。
心臓が鷲掴みされているような感覚になる。
どうしても目線が泳いでしまう。
ドキドキと全身の脈がうるさい。
「…もうすぐ予鈴なるな。じゃあ、また」
腕時計を確認した轟くんが、軽く手をあげて自身の教室へ戻っていく。
「うん…またね」
しばらくその後ろ姿を見ていた。
ああ、格好いいなあ。素敵な人だなあ。
どんどん轟くんを好きになっていく。怖いくらい。
これ以上近付いたら、私は彼の前で個性をコントロールできるのだろうか?
「なまえ!轟くんと仲良さそうじゃん!」
教室に戻ってきた私を、友達がニヤニヤと迎える。
「もー、みんなが思ってるようなのじゃないからね!?」
「えー、すごく雰囲気良かったじゃん」
覗き見してたな…
「私なんか相手しないよ…普通科だし、没個性だし…」
別に可愛くもなければ取り立てて特技も何もない。
「まーウチら普通科にヒーロー科は敷居高いよねー」
「そうそう」
自分で自分を卑下して肯定して、自分の胸の傷を抉った。
釣り合わないよ。私と轟くんとでは。
だからこの気持ちはそっと心の奥にしまっておくの。
感情を隠すのが下手な私が、出来るかは分からないけれど…。
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06 隠すのが下手な私の精一杯