「みょうじさん、これ頼めるかしら?」

大量のノートを、どんっと渡される。
げ、運が悪い。
そんなことを思ってしまった。


あ、と思った時にはもう遅く、私の素直すぎる個性が勝手に感情を表に出していた。

それを見た普通科を受け持つ現代国語が担当教科の、少し神経質な女教師の怒りに触れてしまったらしい。



長々とお説教を喰らってしまう。



そんなことされて、私の個性はさらに感情を表に出し…堂々巡り。


ヒステリックに理不尽な怒りを買う。
お小言が終わったのはたっぷり1時間後だった。




「はあ…」


自らの背景に雨を降らせながら、私は積み重なって重みが増したノートを運ぶ。

ちなみに個性で降っている雨で実際に濡れることはないのでノートは無事である。


「ん、しょ」


ノートの束で前が見づらい。
職員室は一階なので、階段を降りているが踏み外しそうで少し怖い。慎重に、一段一段確かめながら降りていく。


「大丈夫か?」


耳障りの良い低音と共に、目の前がパッと拓ける。
驚いて振り向く。


「と、轟くん!」


私が持っていたノートを半分以上持って、少し心配そうに私を見下ろしている。


「…何か、すごい落ち込んでるみたいだな」


私の周りに降っている雨を見て轟くんは何か察してくれたようだった。

「個性のせいで、先生にお説教されちゃって…あっ、轟くん、私なら平気だからノート…」

載せて、と抱えているノートを轟くんに向ける。


「いや、危ねえから持ってく。どこまでだ?」
「あ…ありがとう、職員室まで…」


日々忙しいヒーロー科の方に手伝ってもらうのは申し訳ない。
でもこれ以上遠慮するのも悪い気がして、その好意に甘える。



「…さっき言ってた個性のせいで、って?」
「あ…さっきね…」

職員室に行くまでの間に、先程の出来事を轟くんに話す。
轟くんは静かに聞いていて、所々で相槌を打ってくれた。


何とか職員室にノートを届け、轟くんにもう一度お礼を言う。


「みょうじ」


轟くんが何かを考えながら私の名前を呼ぶ。

「うん?」
「やっぱ、個性のコントロール出来るように特訓した方がいいんじゃねぇかと思う」
「私もそう思う…でも、どう特訓したらいいか…」


困ってしまう。
今までもこの個性でたくさん嫌な思いをしてきた。
その度何とかしようと色々努力してみたけど、結局何も変わらなかった。


そんな私の様子を見た轟くんが、優しい眼差しで私を見つめる。
その瞳に、吸い寄せられそうになる。


「俺も手伝う。みょうじがそんなに悩んでるなら力になりてぇ。みょうじは笑ってた方が良いしな」


そんなこと言われると勘違いしてしまいそうになる。
顔に熱が集まる。



さっきまで降ってた雨が止み、パッと花が咲いた。



04 雨のち晴れ
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