「みょうじさん、こんにちは」
「あ!緑谷くん。こんにちは!」
放課後、保健室に居ると緑谷くんがやってきた。
緑谷くんは私が入学して初めて手当てをした人で、個性の影響からよく怪我をするのでここで顔を合わせることも多い。
もっとも最近は個性の使い方がすごく上手くなったみたいで前のような無茶な怪我はしなくなったけれども。
「今日はどうしたの?」
「えっと…ちょっと足を捻っちゃって」
少し離れたところにいたリカバリーガールがやって来る。
「見せてみな」
「はい」
左の足首を差し出す。
ふむふむ、とリカバリーガールは言うとちゅーっと唇を突き出して治癒しだした。
いつ見ても面白い光景だ。
「どうさね」
「あ、痛みも無くなりました!」
緑谷くんはとんとん、と何回か爪先を地面にノックする。
「なまえ、一応包帯巻いといておやり」
「はい。緑谷くん、ここに座ってね」
「あ、うん」
緑谷くんを座らせて一応湿布を貼り、包帯を巻く。
その時ガラッと保健室のドアが開いた。
「あ、轟くん!」
緑谷くんが声を上げた。
轟くんが来たんだ、と思うと無意識に花がふわりと飛んだ。
「… みょうじさん」
緑谷くんがそれに気付いて苦笑している。
「うう…恥ずかしい。何も言わないで」
恥ずかしくて顔を上げられない。
緑谷くんの足首に丁寧に包帯を巻いていく。
「…緑谷、怪我したのか?」
「軽く捻っただけだよ」
「そうか」
リカバリーガールが轟くんのもとにやっていく。
「昼怪我したんだって?見せてみな」
「はい」
私がまた放課後、リカバリーガールがいる時に来るように言っておいたのだ。
応急処置はしたけれど、リカバリーガールが治癒した方が安心だから。
リカバリーガールはちゅーっと轟くんの肩を治癒する。
少し羨ましいような気もした。
でも実際轟くんの肩にちゅーして治癒するとなったらきっと恐ろしく恥ずかしくて死んでしまうのではないだろうか。
そう思うと治癒の個性は羨ましいけれど、ちゅーはちょっと、と思ってしまった。
「緑谷くん、包帯巻けたけど足首動かしにくいとかないかな?」
「うん、大丈夫!さすがみょうじさんだね」
「えへへ」
褒められるとやっぱり嬉しくなってしまう。
緑谷くんもニコニコと笑ってくれた。
話す機会も多いので緑谷くんとは比較的仲が良い。
「アンタももう治ったろ?ほら二人とも飴ちゃん持ってきな」
リカバリーガールは轟くんと緑谷くんに飴を渡す。
「「ありがとうございます」」
飴を受け取った二人が、お礼を口にする。
それから二人して視線を合わせて、緑谷くんはニコッと轟くんに向かって笑った。
「轟くん、これからまた自主練?」
「ああ、軽くな」
「僕もついて行っていいかな?轟くんの動き見てるだけでも勉強になるし」
「ああ。」
楽しそうだなあ、二人とも。
「それじゃあみょうじさんまたね。リカバリーガール、失礼します」
「失礼します」
「はいはい」
ぺこり、と二人はお辞儀して一緒に出て行った。
私は二人に手を振る。
「ヒーロー科、いいですよね」
「…アンタも目指したらどうだい」
「この個性じゃ…ちょっと…」
リカバリーガールが苦笑した。
「アンタは看護師向きだよ。人のことをよく見て考えてあげることができる。とても大切なことだ」
看護師向き。
看護師を目指してる私からすると嬉しい言葉で、それを私の憧れのリカバリーガールに言ってもらえたことで頬が緩んだ。
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02 顔も見れない