「みょうじ」
「と、轟くん!」

ふわ、と私の背後にお花が舞うのが分かる。
私の意思とは全く関係なく出てしまうこれは、私の個性だ。

…個性、感情表現。
漫画やアニメのような感情を表した背景が自身の背後に投影される全くありがたくない没個性。

嬉しいと花が舞い、
悲しいと雨が降り、
怒ってる時は怒りマーク。

お陰で嘘が全くつけず、自分の意思とは無関係で出て来てしまうこれらには辟易している。

轟くんは私の背後をチラと見た。

「また花出てるな」
「あ…うん」

恥ずかしくて顔から火が出そうだった。
火が出る個性なら轟くんと一緒で良かったのにな、なんて思う。


将来看護師を目指している私は、リカバリーガールに了承を得て勉強の一環としてお手伝いをしに保健室によく行く。
リカバリーガール一人では大変で、人手も足りないからと忙しい時は私が簡単な処置をすることもある。


ヒーロー科の人達は戦闘訓練で怪我をすることが多いので、保健室に通う内に顔見知りも多くなっていった。



その中の一人、轟焦凍くん。



私が勝手片思いをしている相手だ。


「あの…もしかして、怪我?」
「ああ。ただの切り傷だ」
「見せてくれる?」

肩の辺りをやってしまったらしく、急に上着を脱ぐものだからびっくりして思わず顔を背けてしまった。


「は、拝見します」


男の子の身体を見るのは少し照れる。
意を決して轟くんの肩を見る。



(鍛えられてるなあ…格好いい…じゃなかった)



肩を見るとただの切り傷と言う割には、結構ざっくりと傷付いている。

「避けきれなかった」
「リカバリーガール今いなくて…とりあえず消毒とガーゼで我慢してね。」


私に治癒の個性があったら治してあげられるのに…
申し訳なく思っていると、私の背後はどんよりと色が変わる。


「もしかして心配してるか?」


私の背後がどよどよしてしまったのを見たらしく、轟くんが申し訳なさそうに処置を受ける。


「心配は、もちろんしてるけど…轟くんは悪くないよ!頑張ってるんだなあって感じるし。それより自分に治癒の個性があれば良かったのになあとか思っちゃっただけで…」
「みょうじはみょうじだ。俺はその個性も良いと思う」


こんな無駄な個性を良いだなんて…。
お世辞だとしても轟くんは優しい。


「あ…花」
「わわ!もう、恥ずかしい」


気づかないうちにまた喜んで花が浮いていたようだ。

「不思議だな、それ。…触ろうとしても触れられない」
「う、うん…消し方もよくわからないし、どうにか個性の特訓でもして出ないように出来ればなあと思うんだけど…」

話をしながらも消毒液を吹きかけ、ガーゼで固定する。


…よし、こんな所かな。


「終わったよ、轟くん」
「ありがとう」
「どういたしまして」

にこりと笑う。
轟くんも少し微笑んだ。

怪我しないでくれると安心だけど、そうするとこうして会う機会もなくなる。


「今日は放課後もここに居るのか?」
「うん、放課後も自主練で怪我する生徒がいるからできる限りお手伝いするつもり」
「何か…悪ィ」

轟くんが、申し訳なさそうに頭をかいた。

「えっ?あっ!何か言い方悪かったよね…ヒーロー科の人達が怪我しちゃうのは仕方ないことだよ!むしろ頑張ってて凄いって思うし、微力だけどヒーロー科の人たちの役に立てるのはすごく嬉しいの」

慌てて弁解する。
個性で私の背後にアセアセしたマークが散る。


轟くんがふ、と微笑んだ。

「そうか」

轟くんは普段から表情があまり変わらず分かりにくいが、最近は出会った頃よりも表情がとても柔らかく優しくなったと思う。
何があったのかはよく知らないけれど、体育祭が終わってから特に顕著にそう見える。


彼を好きになったのはほぼ一目惚れに近かったが、最近はふと見せるそういう表情が特に好きだ。ついドキドキしてしまう。




01 彼の前では隠しきれない
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