彼はいつでもボロボロだった。

初めて出会った入試の時も、知り合った日の個性把握テストでも、友達になれた最初のヒーロー基礎学の時も、気になり始めた体育祭のトーナメント式バトルでも。


彼は決まってボロボロになる。
その度私は心を痛めるのだ。


何故?


分からない。

初めて見かけた入試の時から、何故だか気になっていた。


自己犠牲を厭わないその姿勢が。

危うくて脆くて、ハラハラする。



誰から構わず何も考えず、助けに行かずにはいられない彼だから。

だから私が、彼を見ててあげたいと思うようになった。





「… みょうじさんっ!!」




緑谷くんの声が遠くから聞こえる。
心配しているような、声。


「…っ、」


何とか、重い目蓋をこじ開ける。



「みょうじさん!!大丈夫!?」



目の前にいっぱい、緑谷くんの心配している顔。

「っ!わ、わ!」

驚いて、思わず後退る。
ベッドで寝てたらしく、後退りした所で距離は開かなかった。

緑谷くんは、あっ!ごめんね、と照れ臭そうに顔を引いて状態を正した。



「いたっ…」

ずきん、と頭と背中が痛んだ。
あれ、そういえば。


「みょうじさん、覚えてるかな?かっちゃんが爆破したコンクリートの瓦礫から僕を庇って…」



そうだ、そうそう。

今日のヒーロー基礎学、自習。
各々自主トレーニングに励んだり、個性を伸ばす特訓をしたりしていた。

私は何となく、緑谷くんの近くで自主トレをしていて、頭上で爆発が起こったんだ。

トレーニングに夢中になってノートを広げてはブツブツ言っていた緑谷くんは、落ちてくる瓦礫に気付いて居なかった。
私はとっさに飛び出して、彼を抱きしめるような形で守ろうとしたが遅く、頭と背中に瓦礫がクリーンヒットしてしまったのだった。



「軽い脳震盪と、背中に傷が…本当にごめん。僕が気付かなかったばっかりに。」


思い出すことに必死だった私は、緑谷くんが涙目になっている事に気が付かなかった。
いつもとは、逆みたいだ。…もっとも、彼はいつも私が心配している事など知らないだろうけど。


「大丈夫だよ、緑谷くん。リカバリーガールもそう言ってたでしょ?」
「それは…うん…」


緑谷くんは納得していないようだ。


背中に傷があると言っていたが、そっちのほうがジンジンとする。



「かっちゃんが、珍しく…その、悪かったって」
「あはは、それは本当に珍しいね」
「うん、でも僕がボーッとしてたせいだとも…」


言ってて…と緑谷くんの消え入りそうなくらい小さい声。


「本当に気にしないで?緑谷くんに何もなかったなら、良かったよ」
「そんな!良くないよ!」


緑谷くんは今度こそ泣きそうだった。


「いつもは緑谷くんが怪我するでしょ?」
「え?…うん、僕はまだ個性を上手く使いこなせてないから…そのせいで」
「私はね、緑谷くんがボロボロになるのを見るのが1番辛いんだ。だからそれを少しでも防げたなら、本当に嬉しいんだよ」


笑う。
だって、緑谷くんは無事なんだから。


「背中の傷…もしかしたら跡に残るかもって、リカバリーガールが」
「え」

そんなにざっくりいってたのか。
しかし、神経とかまでにいかなくてよかった。
確か背中の神経がやられると、下半身が動かなくなるはずだ。


「もし、残ったら…僕が、責任取るから」
「せきにん、…って、え?」


どういう事だろう?と緑谷くんの顔を見る。
少し、頬が赤い。
どういう、意味なの?


必死に考える。


行き着いたのは、……そういう、意味で。


一気に顔に熱が集まる。


「み、緑谷くん」
「なに?みょうじさん」


緑谷くんの熱っぽい視線に、くらくらしそうになる。


私は大きく息を吸って、吐く。


「責任なんて、そんな。でも…私は、緑谷くんを特別に想ってるの…だから、その…」



むり、しないで。



そう口にしようとして、すぐ、声がくぐもった。


緑谷くんの汗の混じった石鹸の爽やかな香り。
ヒーローコスチューム越しに伝わる熱が、抱きしめられているということを物語る。




抱きしめられていると言う事実に気付いた瞬間、頭の中が沸騰して、目の前がチカチカした。




好き、だから。
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