端的に言って、被害は甚大だった。
通信設備は壊されたらしく遮断され、個性を複数持っていたヴィランの雷のような攻撃により電力も落ちてしまった。
島の所々で火災が起き、のどかだった島は今や半壊状態である。


「食材が豊富な島で良かったわ」
「そうだね…」

私はおにぎりと飲み物をお盆に乗せて、相槌を打つ。

「捕まえたヴィランどうしたの?」
「地下のボイラー室に閉じ込めたってよ。いくら尋問しても何も言わないらしいぜ」

私はその場にいなかったので詳しくは分からないが、爆豪くんがやっつけたもう一人のヴィランのことらしい。

「これ、百ちゃんと上鳴くんに持っていくね」
「お願いね」


私は地下で電力を供給し続けてる上鳴くんと、必需品を創造し続けている百ちゃんの二人の元へ向かった。

階段を降りると、二人を心配そうに見下ろしている響香ちゃんがいた。

「三人とも!」
「なまえさん…」「うぇ…?みょうじ…?」

二人の疲労し切った顔を見て、思わず駆け寄る。
おにぎりがお皿の上で揺れて、慌てて落とさないように変な動きをしてしまう。


「なまえからも言ってやってよ…二人とも個性使いすぎだよ…」
「う、うん、少し休もう?おにぎりと飲み物、ここに置くね」

二人は少しだけ微笑んで頷いたが、手を止めることはなかった。

「いつヴィランが来るかわかりません」
「ここで無理しなくていつするんだウェイ」
「ウェイウェイしてきたじゃん」
「なまえさん、こちら替えの包帯です。緑谷さん達に持って行って下さい」

百ちゃんが包帯を私に手渡す。
私は二人が心配で、それを受け取ったまましばらく動けなくなっていた。

「二人とも、本当に少し休んでね…おにぎりちゃんと食べてね…!?」
「……はい」
「ウェイ」


私は後ろ髪引かれる思いで、その場を立ち去った。







奥にある畳の部屋には、数人の怪我人と緑谷くん、爆豪くんが寝かされていた。
診療所の先生たち、そして焦凍くんと障子くんが看病を手伝っている。
そして二人が目を覚ました時用におにぎりを持ってきていたお茶子ちゃん。

「焦凍くん、障子くん、お茶子ちゃん、お疲れ様。皆少し疲れてるんじゃない?平気…?」
「ああ」
「俺たちは大丈夫だ。…それより…」

障子くんの視線が、意識のない二人へ。

「診療所の先生が処置してくれているが…」
「すまんな、ワシらの個性でできるのは傷口を塞ぐことくらいじゃ。骨折はどうにもならん」
「これ以上は本当の病院じゃないと…」

私たちは二人の眉間にシワの寄った辛そうな寝顔を見つめ、不安に思う。
緑谷くんと爆豪くんの二人合わせたパワーでさえ勝てなかったヴィラン…。


「僕に手伝わせて」


不意に後ろから聞こえた高い子供の声。
振り返ると、活真くんと真幌ちゃんが立っていた。
二人とも心配そうな顔をしている。

「活真の個性は細胞の活性化らしいの。傷を治せるかどうかは分からないけど…」
「デク兄ちゃんたちは僕らを守ってケガしたんだ!だから…」

少しずつ自信なさげに落ちていく活真くんの視線。
私はそんな二人に近付いて行って、頭を撫でる。

「なっ、何よ!?」
「お姉ちゃん…?」
「勇気出して来てくれたんだね、ありがとう。活真くんの力、きっと緑谷くんと爆豪くんの力になるよ」

私がにこりと笑顔でそう言うと、活真くんはぱぁっと表情を明るくさせる。

「こちらからも頼むよ、カツ坊」

先生からもそう言われ、活真くんは大きく頷いて二人に近付き、手を触れるとそこから淡い光が溢れた。


後ろで心配そうに見守る真幌ちゃんに、とんとんと優しく肩を叩く。

「…何よ」
「さっきは、緑谷くん…えっと、デクくんがピンチだって知らせてくれてありがとうね。真幌ちゃんの個性だって聞いたよ」
「…ふん」
「怖かったよね、偉い偉い」

優しい口調で、頭を撫でてあげると、真幌ちゃんは照れ臭そうにしながら手を払い除ける。

「子供扱いするんじゃないわよっ!」
「あはは、ごめんね」






「まずは現状の報告」


食事を配り終え、寝床やその他諸々必要な物を揃え終わり、各々の仕事をやり切った後、私たち1年A組は緑谷くん爆豪くんを除き全員が一室に集まっていた。


「通信、電力網が破壊され救援を呼ぶことはできない」
「先程救難メッセージを発信するドローンを創造し本島へと発進させました」


個性の使いすぎにより横になっていた百ちゃんが、起き上がりながらそう言う。

「到着は早くて6時間。救助が来るにはさらに時間がかかりますわ」
「それまで、ヴィランが待ってくれるとは思えない」

尾白くんの言葉に数人が頷く。
私もその意見には同意だった。
それにしてもあれだけ個性を使った百ちゃんがドローンまで創造していたとは、本当に頭が上がらない。


「今我々がやるべき最優先事項は島の人々を守り抜くこと」


話している途中で、活真くんと真幌ちゃんが部屋に入って来た。
ドアに一番近いところに立っていた障子くんが、口に人差し指を当てしーっとジェスチャーする。


「どうやって?」
「緑谷と爆豪をあそこまで痛めつけたヴィランだぞ!?」

砂藤くんが軽く手を上げ問いかけ、峯田くんが頭を抱える。

「俺たちが戦ったヴィランもかなり手練だった」

焦凍くんが同意を求めるように私を見た。

「それから髪の赤い女も強敵そうだったよ。私のガラス、粉々にされたし」
「戦うにしてもヤオモモや上鳴は個性かなり使っちゃってるし」

響香ちゃんが二人を見ながら言う。
上鳴くんは端っこでウェイウェイ状態になってしまっていた。


「分かってるだけでもヴィランはまだ三人いるわ」
「一斉に襲われたらひとたまりもねーぞ」
「せめてヴィランの目的が分かれば…」
「うん、対策も立てられんのに…」

ヴィランの…目的…。
何か引っかかる。

あの時、個性複数持ちのヴィランはなんて言ってた?


『しょ、少年を…』


そう、そうだ。
少年、活真くんを指してそう言っていた。
私がバッと活真くんを見たと同時に、活真くんが駆け出す。


「ヴィランが狙ってるのは僕だよ!」


皆の視線が、一気に活真くんに向く。

「なんだって?!」
「僕の個性を奪うって言ってた!」

個性の強奪、まるでオール・フォー・ワンのようだと声が上がる。

「でもヴィランの目的は分かった!」
「この子を連れて逃げればいいだけ…」
「そう簡単にはいかねぇ」

三奈ちゃんの言葉を、焦凍くんが遮った。

「相手はヴィランだ。この子を差し出さないと島民を殺すとか言い出しかねねぇ」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!?」

私たちは再び頭を抱えた。
目的が分かったところで、ヴィランを倒さなければいけないのは変わりないのだ。
だが相手は全員かなりの手練れ。
何か策があれば…。

こういう時、緑谷くんがいてくれれば、と思ってしまう。
彼はいつも作戦を考えてくれるから、とても頼りになる。


「僕をヴィランに渡して!…殺さないって言ってた…僕の個性なんてなくなってもいい…それで島の皆が助かるなら…」

誰もが悲痛な面持ちで活真くんを見ていた。
そんなことしたくない。
なのにそう言い切れない。
そんな空気だ。


「そんなのダメだ」


静かな、意志の灯った言葉。
私たちの誰もが言いたかった言葉を、彼…緑谷くんが言ってくれた。

「デクくん…?」
「緑谷くん!平気なのか?」
「き、傷はもういいの?」

飯田くんと私の問いかけに、緑谷くんが大きく頷いた。

「活真くんの個性のおかげだよ」

緑谷くんは笑顔でゆっくり活真くんに近付いて、視線を合わせるようにしゃがむ。

「細胞の活性化、新陳代謝の促進ドーピング的効果すらある。おかげでこんなに回復できた!すごい個性だよ、活真くん!ありがとう」
「デク兄ちゃん…!」
「君が怖い思いをすることなんかない。その為に僕たちがいる」

誰もが緑谷くんの言葉に惹きつけられ、頷いた。

「要するに、あのクソヴィラン共をぶっ殺せばいいだけのことだろうが」
「爆豪!」

爆豪くんも回復したらしく、ドアの所に立っていた。
私は爆豪くんのそんな短絡的な考えに思わず笑ってしまう。

「必ず君たちを守るよ!」
「ヴィラン共をぶっつぶす!」
「島の人達も絶対に助ける!」
「絶対に勝つ!」

私は立ち上がり、隣にいた焦凍くんと頷き合う。

「爆豪、緑谷。その意見乗った」
「私も同じ気持ちだよ」

私がそう言うと、お茶子ちゃんも立ち上がる。

「私も!島の人達を守りたい!戦おう!」


A組全員の気持ちが一つになった気がした。
皆心なしが表情が柔らかくなっている。


「しゃーねーな!松田さんちの耕運機直さなきゃウェイだし」
「俺だって佐藤のおばあさんには長生きして欲しいと思っている」
「俺もやるぜ!」
「俺もだ」
「ウチも」
「もちろん!」

上鳴くんを筆頭に、飯田くん、切島くん、常闇くん、響香ちゃんに透ちゃんも賛成して、やがて全員が立ち上がって頷き合う。


「いつも言ってますもの…」

ふらふらしながらも力強く、百ちゃんが言う。

「更に向こうへ!」

皆が拳を突き上げる。



「「「「プルスウルトラ!!!!」」」」








「緑谷、作戦は?」
「確認できたヴィランは三人。後ろが断崖絶壁の城跡を拠点にして、敵の侵攻ルートを一つに絞らせる」

私たちは、島の地図を広げながら作戦会議を始めた。
緑谷くんの策に、皆が真剣に耳を傾け、時には意見を言い合う。

「先制攻撃でヴィランを分断それぞれの地形を利用して…」
「奴らを叩きのめす」



そして、島民全員の城跡の洞窟へ避難が始まった。
各々手分けして、夜の大移動。
これだけでもかなりの体力が削られる。
それでも私たちは誰もが真摯に取り組んでいた。


作戦は簡単。
後は、ぶっつけ本番。
私たち全員がクラスメイトの誰もを信じてるからこその作戦だと、私は思った。


「焦凍くん!」

各々の場所へ移動する前。
私は焦凍くんに声をかけていた。

言いたいことなんて何もなかった。

ただ、信じてる。
…けど、だけれども。


戦う前に、焦凍くんの顔をもう一度見ておきたかった。


「なまえ」


焦凍くんの左手が私の頬に手を触れる。
ゴツゴツした男の子の、もう既に慣れた熱い手のひら。
私はその手にすり寄るように触れる。

「お前なら大丈夫だって、分かってる」
「…うん」

キスは、しなかった。
その代わりに焦凍くんは、ちりん、と軽い音をさせたストラップを私に見せた。


「また後で」


私も答えるように、お揃いのストラップを取り出して笑顔で見せた。


「また、後で!!」



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