「障子さんからビーチに応援が欲しいとのことですわ!」

百ちゃんの言葉に、私は立ち上がる。

「なら、俺が行くよ」
「私も!」

私と尾白くんが一緒のタイミングで立ち上がった。
私は尾白くんに、じゃあ一緒に行こう!と微笑む。
尾白くんが頷いて、私たちは二人で海水浴場へと向かった。


「みょうじは昨日どんな仕事してたんだ?」


海水浴場へ軽く駆けながら向かってる途中、尾白くんがそう問いかけて来た。

「昨日は事務仕事と電話の応対、それからガラスの修理に落とし物探し…」
「そっちも大変だったんだな」

指を折りながら昨日の仕事内容を言っていくと、尾白くんは苦笑する。

「尾白くんは昨日ビーチに居たんだよね。焦…轟くんが、尾白くんがいるから安心だって言ってたよ」
「へぇ、轟が?…なんか少し嬉しいな」
「って話してる間に着いたね!よし、またお互い仕事がんばろー!」
「おう!」


私たちは各々別れて、自分のやることを見つける。
障子くんが海水浴場全体を見渡して、問題が起こり次第教えてくれるのは頼もしかった。

私は喧嘩している観光客を止めに入ったり、ゴミのポイ捨てを注意したり小さな仕事をコツコツこなしていった。






日が傾いて来て、ビーチに客足がまばらになった頃、それは突然現れた。

狼のような見た目をしたヴィランが、突如としてやって来て、海水浴客に危害を加えようとしたのを、尾白くんが防いだ。
私は少し遠くにいて、それに気付くのに時間が掛かってしまった。


「フロッピー、テンタコル!みんなの避難を最優先に!」
「分かってる!」

障子くんと梅雨ちゃんが子供やお年寄りを優先させながら浜辺から客を避難させる。


「サンドリヨン!行けるか!!」
「うん!」

私は駆け出してヴィランとの距離を詰める。

「尾空旋舞!」

尾白くんがジャンプで回転を加えながらその尻尾で攻撃するも、難なく塞がせがれる。

私はその隙に背後に回り込んで、ガラスのナイフを創造すると、斬りつける。
が、ヴィランが素早い手つきで私の手首に手刀を入れ、ナイフが岩にぶつかりカランと音を立てた。私はくるりと宙返りして、とんと着地したと同時に地面に鋭利なガラスをヴィランの真下からずしん音を立てて出す。

「ほぉ、そんなことも、できるのか」

ヴィランが少し驚きつつ、寸での所でかわされた。


「何が目的だ!?何故こんなことを!」


尾白くんがヴィランに問いかける。
私はじりじりと海水浴客を背後に守れるように移動しながらヴィランを睨みつける。

「ヒーローにしては若ぇな」

尾白くんの問いに答えず、私が割った大岩を二つ軽々と持ち上げ、それを私たちに向かって投げて来た。
私たちの倍くらいでかい岩が砂浜に落とされ、ずしんとその重みで埋まっていく。
当たったらひとたまりも無い。

私と尾白くんは前転やバク宙で体を捻りながらその攻撃をかわしていくも、尾白くんの逃げた先に岩が降ってきて逃げ道がなくなった。

「尾白くん!」
「!!」

ぶつかる!?
私のガラスで何とか…いや、間に合わない!

そう思った時、森の方から黒い塊が飛んでくるのが視界の端に見えた。


「「常闇(くん)!」」


ダークシャドウと一体化し、飛んできた常闇くんが寸前で尾白くんを掴んで助けた。

「遅くなった!ダークシャドウ!!」
「あいよ!」

常闇くんがダークシャドウでヴィランに立ち向かう。
私も体制を整えて、ベルトに挟んでいたピストル型のサポートアイテムを構える。

ヴィランはダークシャドウを真正面から捉え、その拳で吹き飛ばす。
堪らずダークシャドウはその風圧で吹き飛ばされた。


「スマホが使えない!事務所に戻って応援を!!」
「しかし…」
「ここは俺とみょうじが持ち堪えてみせる!」
「うん!常闇くんが戻るのが一番早いよ!私たちに任せて!」

常闇くんが渋々頷いたのを見て、私と尾白くんは二人同時に走り出した。







「ふんっ!」

ヴィランの攻撃が、尾白くんに入って吹き飛ばされる。

「尾白くん!」
「気にしてる余裕があるのか?」
「っ!?」

思わず尾白くんの安否を気にして振り返った私に、ヴィランが迫って来ていた。

ヴィランの拳を、寸前のところでガラスの壁を作り出して防いだ。
と、思ったのも束の間、更に力を込めたヴィランの拳にガラスは耐えられずバリンと嫌な音を立て、そのまま私の左頬に拳が入って、同じく吹き飛ばされた。

ガラスがあったおかげで衝撃が少し和らいでいたのが幸いしたが、まともに喰らったため頭が少しくらくらとして、立ち上がろうとしたときにふらついた。


私たちを見ていた障子くんが、堪らずヴィランに向かっていく。
しかしその攻撃は叶わず、頭をヴィランによって掴まれる。

「障子、くんっ!」

私が叫んだのと同時に、遠くからエンジン音。


飯田くんが走って来て、その勢いのままヴィランを蹴り付けた。

「障子くん!」

そして飯田くんが障子くんを、抱えて下がる。


「ここは俺らに任せろ!」


続けて焦凍くんと瀬呂くんが来て、氷が地面を這い、テープと氷でヴィランを拘束した。


「なまえ!大丈夫か」


焦凍くんが駆けてくる。
私は自分の力で立ち上がって、大きく頷いた。


「今だ!常闇くん砂藤くん!」


空から砂藤くんを抱えて飛んできた常闇くんが、砂藤くんを離す。


「シュガーラッシュ!!」


砂藤くんが叫びながらヴィランに向かって飛んでいく。


「図に乗るなぁーーーッ!!!」


ヴィランは氷とテープ、両方を破り、向かって来た砂藤くんを殴り吹き飛ばす。


「「「砂藤(くん)!!!」」」


さっきから戦っていて分かってはいたけど、強い…!


「おいおい、ガキばっかとはいえヒーロー増えすぎだろ」







「行けるか、なまえ」

少し頭がくらくらしていたが、他のみんなが戦っている間に少し休めた。
万全とまではいかないが、大きく頷いた。

「うん、行けるよ焦凍くんっ」
「よし」


二人で同時に氷とガラスが地面から這い、絡み合いながらヴィランに攻撃する。
しかしヴィランはそれを拳一つで粉々にする。


何度か私と焦凍くんのコンビネーション技を試したが、そのどれもが突破されてしまう。

これでは、埒があかない。


「くそっパワーでねじ伏せてきやがる」
「飯田!打つ手は?!」

瀬呂くんが飯田くんに問いかける。


「今は奴を釘付けにすることだけを考えるんだ!島民の避難が完了するまで!」


避難も終わっていない上、これだけの人数で苦戦を強いられている現状、確かにそれ以外考えようがない。

とにかく1秒でも時間を稼ぎ、皆の避難を完了させなければ。


「深淵闇駆(ブラックアンク)!」
「レシプロ…バースト!」

常闇くんと飯田くんが二人同時に攻撃を仕掛ける。
しかしヴィランが片足をダン!と踏み込んだだけでその攻撃は風圧によりかき消されてしまった。

「歯応えねーな、ヒーロー!!」

今度はヴィランが踏み込んでくる。
それに対して焦凍くんが炎で対応する。
するとヴィランも同じ炎を口から吐き出す。
想定外のことで慌てて私は目の前にガラスの壁を作り出す。
焦凍くんも同じように氷壁を出し、炎の攻撃から身を守る。

ていうかパワーだけじゃなくて炎まで出せるなんて…!


「くっ…このままでは…」


目の前の敵をどうすればやっつけられるか。
誰もが思案し、一分一秒を稼ぐ中、突如としてそれは西の空に現れた。
緑谷くんが頭から血を流している"幻"。
誰かの個性で、緑谷くんがピンチになっているということを知らせるものだ。


「…焦凍くん」
「!…ああ、分かった」


私が名前を呼んだだけで、全ての意図を汲み取った焦凍くんが頷いた。
私はそれを聞いてすぐに走り出す。

「轟!?今ここの人数を割いていいのかよ!?」
「大丈夫だ。緑谷のことはなまえに任せる」


後ろから数人、私を追いかけてくるのが分かったが、私は構わずあの幻を目印に走り続けた。







森を抜けると広場が見えて来て、緑谷くんと爆豪くんが倒れ、子供二人に近付くヴィランか居た。


「皆!!」


私は子供たちの前にガラスの壁を作り出すと、二人に駆け寄る。


「みょうじ…さん…っ」
「大丈夫!?」
「それより…真幌ちゃんと…活真くんを…」


子供二人の名前だろう。
私は大きく頷いた。

子供たちに向かってゆっくり歩いてくるヴィランの行く手を阻むように前に立ち塞がる。


「近付かないで!」


ずん!と地面からヴィランに向かってガラスを突き上げる。
ヴィランは一歩下がり、シールドのような物を手から出して攻撃を回避した。

続け様に手の甲を突き出し、爪から光線のような物を出し攻撃してくる。

私は目の前にガラスの壁を作り出したが、光線は私のガラスを貫通する。


「っぐ…!」


咄嗟にかわしたか、かわしきれなかった攻撃が私の左肩を貫通し、じわりと熱いものが溢れ出す気持ちの悪い感触がした。

肩を抑え、よろけながらも私はそこをどかなかった。


「本当にヒーローというのは…っうう…!!」


私を嘲笑うかのように見下したかと思えば、急に心臓を抑え苦しみ出した。

私は今のうちにと思い、もう一度右足を踏み出し地面からガラスを這わせヴィランを貫こうとした。

ガラスが、寸前でバラバラに砕け散った。


「ナイン!!」


赤い髪をした女の個性で、私のガラスが切り刻まれたようだった。

「しっかりしてナイン」
「しょ…少年を…」
「分かったわ」


赤い髪の女が活真くんに狙いを定めた。
私は真幌ちゃんと活真くんの前に立ち塞がり、守るように両手を広げる。


「邪魔よ」
「邪魔なのはどう考えてもそっちでしょ…!」


ガラスでナイフを創造していくつか投げつけると、女は髪を振り乱してナイフの攻撃をかわした。
それと同時に無数のカラスが飛んできて、ヴィランを囲んだ。

この個性は…口田くん!
ほっとしていると、後ろから障子くんがやってきて、真幌ちゃんと活真くんを抱えた。

「安心しろ、味方だ」
「今のうちに!」

更に後ろからはお茶子ちゃんと梅雨ちゃんが来て、お茶子ちゃんの個性で緑谷くん爆豪くんを浮かせ、梅雨ちゃんが二人まとめて連れて行ってくれた。
私はみんなを見送ってから、一番最後に皆を追って走り出した。




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