!注意!
映画ヒーローズ:ライジングの内容となります。
未視聴の方はご注意下さい。
また、オリジナルのキャラクター等出てきますのでご了承下さい。







…冬。
私たち1年A組は、引退したNo.1ヒーロー・オールマイトの後を継ぐ次世代のヒーロー育成プロジェクトの一環として、クラス全員で期間限定の校外ヒーロー活動のために日本のはるか南に位置する離島・那歩島を訪れていた。


「はい!こちら雄英ヒーロー事務所です!はい、はい、分かりました!大丈夫ですよ、すぐに行きますね!…なまえー!寿さんのお家の窓ガラスが、近所の子供達が野球しててボールで割れちゃったんだって!行ってくれる?」
「りょーーかいっ」


パソコンに向かって事務仕事をしていた私は、電話対応をしていた三奈ちゃんから入った仕事依頼を聞くとすぐに椅子からぴょいと立ち上がった。


「全く、ガラスがよく割れる島だなぁ」


仮のヒーロー事務所兼宿舎のいおぎ荘を飛び出して苦笑した。

ちなみに寿さんというのはこの島の御長寿のお婆さんのお家で、かなりのお年なので子供とお婆ちゃんではガラスの片付けは大変なのだろう。

それに対して私の個性は"ガラス"。
無からガラスを作り出すことが出来る。
作ったガラスは時間が経てば消える。
ただし、元々あるちゃんと作られたガラスなら話は別で、バラバラになっていても元の形に戻すことも出来る(別の形にすることも可)


私はとにかく寿さんの家に向かっていった。
寿さんの家はこの島の中でも大きく、ここに来てすぐに覚えている。

立派な門構えの外玄関を潜ると、左奥に縁側がある。
そこに寿のお婆ちゃんと、野球のバットやグローブを持った子供3人、それからこの島でガラス細工を販売してる硝田のおじさんがいた。


「おっ、サンドリヨンちゃん!こっちこっち」


硝田さんが私を見つけて手招きする。
私は軽く駆け出して近寄る。

「こんにちは!皆さん怪我してないですか?」
「あぁ、大丈夫だよ」

お婆ちゃんがにこりと穏やかに笑ってくれる。
野球をしていた男の子たちは居心地が悪そうだが、きっと寿のお婆ちゃんは怒らなかっただろう。
窓ガラスを割ってしまった罪悪感で落ち込んでいるのだろう。早く元に戻して元気付けてあげなくちゃ。


「割れた窓ガラスはどこでしょう?」
「二階の窓だよ。お願いできるかな?俺も一応ガラス屋ってことで呼ばれたんだけど、俺じゃぁ元には戻せないからなあ」
「はいっ、ではお邪魔しますね」


二階に行くと、既に割れたガラスがまとめられていた。
恐らく硝田さんがやってくれたのだろう。
これなら本当にすぐに直せそうだ。


「お姉ちゃん、元に戻せる?」
「うん、すぐ戻せるよ。…あ、ガラスがまだ散らばってるかもしれないから下がっててね」

私はガラスの山に手を触れる。
そして個性を使う。
ガラスはキラキラと光りながら、窓ガラスへと元の形に戻っていく。

最後に窓ガラスにヒビや欠けた部分がないか念入りにチェックする。


「……よしっ」


チェックが終わり振り返ると、その場で軽い歓声が起こった。
男の子たちが私の周りを飛び跳ねてありがとうとお礼を言い、硝田さんが窓ガラスを見ながらさすがだなぁと苦笑した。







「サンドリヨンちゃんがいるとウチの商売上がったりだよ」
「またまた、そんなこと言って。硝田さんのとこはお土産屋さんじゃないですか」


任務の終わった私は、硝田さんのガラス細工店に訪れていた。

このお店はガラスで作られた置き物やストラップ、アクセサリーなどを扱う工房と一つになった雰囲気のある有名店。

「それにしても不思議ですね、ガラスなのに光に当てるとまるで宝石のように七色に光るんですから」

飾られているストラップを手に取り、眺めながら言う。

「那歩硝子って呼ばれてるこの島の伝統ある工芸品だよ」
「それで、あの…この"逢わせ硝子"というのは何ですか?」

POPにデカデカとハートと共に書かれた"逢わせ硝子"の文字。
二つ並んだ作品たちは、どれも丸いビー玉のようなガラスを雑に半分に割られたような形をしている。割られた部分は滑らかに加工してあり、怪我をしないように配慮されている。

「合わせ硝子。この島の昔話から来てるんだよ」

それは大昔。
まだ戦争があった時代。

愛し合う恋人がいた。
しかし男の方は戦争へ徴兵されることが決まり、女の方が悲しみに暮れる中、男はこの島で作られたガラスを半分に割り、片方を女に託した。

『このガラスがある限り、僕は君の元へ帰ってくる。そしてまたこのガラスが一つになる日を僕は信じてる』


硝田さんはその話をしながら二つのガラスをくっつけて見せてくれた。

「二人はどうなったんでしょうか…」
「それは分からないけど、この話が残ってるって事が答えなんじゃないかな」
「ロマンチックですね」
「おじさんの常套句さ。この話をするとカップルたちがバカスカ買っていくんでね」

ははは、と少し照れ臭そうに硝田さんは笑った。

「だから二つをくっつけて"合わせ硝子"、もう一度再会出来たから"逢わせ硝子"さ」
「なるほど…」

で、と硝田さんが悪戯っぽく笑った。

「さっきから手に持ってる逢わせ硝子のストラップ、買っていくかい?」
「……っ!!」


無意識に手に持っていたそれを、この茶目っ気たっぷりなおじさんは見逃さなかった。







「ショートくん!」

街中を見廻り終わり、ついでに海水浴場の状況を事務所に伝えておこうとやって来ると、焦凍くんはかき氷屋さんの前にいた。

私は砂に足を取られながら、焦凍くんに近付く。
私の声に気付いた焦凍くんがゆっくりと振り返る。


「なまえ…じゃなかったサンドリヨン、見廻りか?」
「うん、海の方はどう?」
「ああ、今のところ問題ない。たまに子供が沖まで流されたり迷子が出るくらいだな。海の中なら蛙吹がいるし、陸の方も障子や尾白がいるから安心だな」
「そっか、なら良かった」

ふと焦凍くんが微笑む。

「今日は暑いからな、ちゃんと水分取っておけよ」
「う、うんっ」

ぽん、と頭に手を置かれる。
恋人になって少し経つが、焦凍くんのまるで物凄く愛しいものを見るような優しい瞳に未だに慣れずにドキドキしてしまう。

私は思わずぽーっとして彼の瞳を見つめる。
焦凍くんは視線を逸らさず少しだけ不思議そうな顔をした。



「ショートくん、また氷頼むよ!」
「ああ、はい」

ずしん、と焦凍くんが自分の背丈ほどの氷を地面から作り出す。
私は思わず笑ってしまった。

「お、今日も来てるねサンドリヨンちゃん。二人は本当に仲良いねぇ」
「えっ!?あ、あの、そんな」
「はい」

おじさんの言葉に、なんでもないことのようにしれっと肯定してしまう焦凍くん。

「焦凍くんっ!?私たち今は一応ヒーローとして来てるからっ!ひ、否定するところじゃないっ!?」

焦凍くんは首を傾げる。
そして少しだけ拗ねたような顔をする。

「否定…したくねぇな」
「あ、あぁうぅ…うん…えーっと、それより、あれだね!ショートくんの氷で作ったカキ氷、大盛況みたいだね」
「売れ行きいいよ、サンドリヨンちゃんもどう?」

カキ氷屋のおじさんは、先ほどまでの私たちのやり取りにニヤニヤしながら私にカキ氷を勧めてくる。
私は両手を前でぱたぱた動かして拒否した。

「もちろん食べたいですけど…仕事中ですから!では私は事務所のほうに戻りますね!ショートくんも頑張って!」
「ああ」

ひらひらと手を振って、海水浴場を後にした。







夕方、皆が各々仕事を終え仮のヒーロー事務所に戻ってきた。
皆疲れているらしくぐったりしている。
それもそのはず、連日小から大まで様々な仕事をこなしている。

「疲れたー」
「労働基準法プルスウルトラしてるし…」
「委員長、ちょっと細かい仕事受けすぎじゃない?」

私もちょっと思ってたことを各々口に出すので苦笑してしまった。


「事件に細かいも大きいもないだろ?」


パソコンで今日一日の仕事内容を確認していた百ちゃんが立ち上がる。


「ヒーロー活動してるとは言え私たちはまだ学生。誠実にこなし、島の皆様から信頼を得なければ!」
「そうだよね、飯田くん、百ちゃん!」

私もうんうんと大きく頷いてみせる。


「はーい!ここに来て、一度もヒーロー活動してない奴がいるんですけどぉ?」


峰田くんが手を上げてから発言し、向こうで座ってくつろいでる爆豪くんを指さした。
私は思わずぷはっと吹き出してしまう。


「わざと残ってんだよ!お前らが出払ってるときにヴィランが現れたらどうすんだ!ア"ァ!?あと、みょうじ…てめェ何笑ってんだ後で覚えとけよコラァ」
「ひえっ!わ、笑ってない、笑ってない!」


爆豪くんが私を睨みつけて、ふんっと鼻を鳴らしてからようやく視線を外してくれた。

「この島にヴィランはいねーだろ」


切島くんがそう言うと同時に「お邪魔するよ」と村長さんの声が聞こえた。
皆が一斉に振り返ると、島民の皆さんが手にたくさんの料理を持って笑顔でやって来ていた。


「さっきはばあちゃんを病院にまで運んでくれてありがとね」
「バイクの修理助かったわ」
「うちのバッテリーも」
「ビーチの安全ありがとう!」
「取れたての魚やで!」


皆さんが持って来てくれた様々な料理が、テーブルの上にずらりと並ぶ。
それは壮観に感じるほど。
豪華でとても美味しそう。


「お礼というわけじゃないけど、良かったら食べとくれ!」
「「「いっただっきまーーーす!!!」」」


私を含めたクラスメイト達がぴょんと跳ねて喜ぶ。
たくさん慣れない仕事をしてお腹も空いてたし、何より好意がとても嬉しい。

飯田くんはシュババ!と独特の手の動かし方をしながら「君たち!少しは遠慮したまえ!」と嗜めたが、島の皆さんは気にするどころかニコニコ笑顔で私たちを見てくれていた。
私たちはご好意に甘えることにして、美味しい料理に舌鼓を打った。







夕食後、お風呂に入って出て来ると、焦凍くんが私をちょいちょいと手招きしながら呼んだので、とててと彼のもとに近寄った。


「なまえ、まだ食えるか?」
「え?食べれるって…あ…!」

テーブルの上に、見慣れないぺんぎんの形をした可愛らしい家庭用カキ氷機。
周りにはいちごやメロン、レモン、ブルーハワイなどのシロップも。

私は驚いて思わずそれらを指差しながら目を見開いて焦凍くんに聞き返す。

「これ…っどうしたの?」
「昼間、カキ氷食いてえって言ってただろ?だから食わせてやりてえなって…カキ氷屋のオヤジさんに借りた。いらなかったか?」

そんな小さな私への気遣いがすごくすごく嬉しくて、私は驚きながらも頬を綻ばせながらふるふると首を横に振る。

「ううん!すっごく嬉しいよ!ありがとうっ」
「良かった」

焦凍くんは小さな氷を作り出して、カキ氷機にセットする。
あまり慣れない手つきで、焦凍くんがカキ氷をごりごりと削っていく。
下に置かれたガラスの器にふわふわの氷が山のように積もっていく。

「ほら、出来たぞ」

焦凍くんが器を私に渡して、シロップを指差す。

「どれにする?」
「んー…あっ」

私は二つのシロップを手に取る。
焦凍くんは少し不思議そうな顔をしながらそれを見守る。


「見て!焦凍くんみたい」


いちごシロップと、ブルーハワイのシロップを半々に掛けたカキ氷を、焦凍くんに見せる。
焦凍くんは驚いた表情を見せてから、すぐにふと優しい眼差しに変わる。

そして私の頭にぽんと手を置いて、なでなでと頭を撫でる。

「お前本当に…」
「うん?」
「いや、なんでもねぇ。早く食べないと溶けるぞ」
「あっ、うん!いただきますっ」

スプーンですくって、カキ氷を頬張る。
お風呂で火照った体がその冷たさで冷やされていく。
それに、焦凍くんの氷だからなのか分からないけどとっても美味しく感じる。

「美味いか?」
「美味しい〜〜」

頬に手を添え、んー!と唸りながら食べる。
そんな私の様子を、焦凍くんは微笑ましそうに眺めている。


「…チッ、リア充め」


どこからか峰田くんの声が聞こえた気がしたが、私は気にしないことにした。


「そうだ、あの、焦凍くん」
「何だ?」
「これ、なんだけど」

さっき硝田さんのお店で買った逢わせ硝子のストラップを取り出す。
二つのガラスが軽くぶつかって風鈴のようなちりんとした音を立てた。

「良かったら…あっ、お揃いとか嫌じゃなければなんだけどっっ」
「くれるのか?」
「う、うん」

焦凍くんは私が手に広げてるストラップをまじまじと見つめる。
私はなんだか恥ずかしくなってきていたたまれなくなる。
そして昼間硝田さんから聞いた逢わせ硝子の伝説をさらりと説明した。

「やっ、やっぱりお揃いとか嫌だよね、ごめ…」

慌ててストラップをポケットにしまおうとした手を、少し強引に焦凍くんが取って制した。

「待て、嫌とか言ってねぇだろ」
「あ…」
「ありがとう、大切にする」

私の手から、片方のストラップを取り、ふわりと微笑む。
あまりに眩しくてくらりときてしまった。
本当にこのイケメンさん、私の彼氏なんだよね…。



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