僕、緑谷出久の友達轟焦凍くんは、少し前からクラスメイトのみょうじさんとお付き合いを始めた。
轟くんの告白は、ほぼクラスメイト達の目の前でしたも同然のようなものだったので、二人は公認のカップルとなっている。


「なあ、お前らもうしたのかよ!」


例によって更衣室で成される会話は少し下世話なものが多い。主に峰田くんと上鳴くん中心なのだが。

急に会話を振られた轟くんは、頭上にクエスチョンマークを浮かべながら小首を傾げる。


「…したって、何をだ?」
「何ってナニだよ!」
「?」


峰田くん、何を言い出すんだ突然。
と僕はことの成り行きを見守っていると、業を煮やした上鳴くんがだーかーらー!と轟くんに耳打ちする。


轟くんは少し目を見開いてから俯いて、してねえ、とだけ言った。
それを聞いていた男子達は何故だかホッと胸を撫で下ろしたような雰囲気だ。


「…そういう無責任なことは今はしたくねぇ。みょうじを傷つけたくないしな」


表情も変えずさらりと言い放つ。
それを聞いた男子達は何故だかくぅ…っと胸を掴まれるような感覚になる。


「かーっ!!イケメン!!」
「くっそ、なんか負けた気になるな!」
「さすが轟…男らしいじゃねぇか!」


轟くんはまた首を傾げてクラスメイト達を見ていた。
かっちゃんは「アホらし」と言い放ち舌打ちして更衣室を出て行った。







「緑谷、飯田。相談なんだが」
「え?何?」
「何だ?俺で良ければ話を聞くぞ!」


お昼を一緒に食べていると、轟くんが少し真面目な顔をして話を切り出す。


「みょうじと一緒に出掛けたいんだが、何処がいいかよく分からねえ。こういうのって男がエスコートするもんなんだよな?」


僕と飯田くんは思わず固まる。
僕は女の子とお付き合いしたことはないし、飯田くんも恐らく同様らしい。
それにし轟くんから"エスコート"という言葉が出ることにも驚いた。


「ご、ごめん轟くん…僕あんまり知識が無くて…でも一生懸命一緒に考えるよ!」
「そ、そうだな!俺も知識も経験もないが…共に考えればいい案が思いつくかも知れない!」
「すまん…頼む」
「うん!一緒にみょうじさんを喜ばせられるようなデートプランを考えよう!」
「うむ!!」


こうして僕たちは、轟くんとみょうじさんのデートに関わることとなった…!







観光名所やデートスポット関連の雑誌を三人で広げていく。

「女の子の好きなものと言ったら、やっぱり某有名大人気遊園地!」
「待て、しかしこの記事には初デートで行くと別れるというジンクスがあると書いてあるぞ!」
「なんだって!?!」
「…行ったことねぇな」
「…今度一緒に行こうね!」
「ああ」


某遊園地、ボツ。


その後も映画、カラオケ、ボーリングと案は出るが何となく二人の雰囲気に合ってないような気がしてボツになっていった。


「…ん?ここはどうかな…?」
「何々…ほぉ、良さそうじゃないか!轟くん!」
「へえ…良いな」


三人で雑誌の最後のページにどんと乗ったそれなりに有名なテーマパークだ。







休日。

「行くか」
「う、うん」

みょうじさんが他所行きの可愛らしい服に身を包み、轟くんの隣にソワソワとしながら立つ。
轟くんは当たり前のように手を取って軽く微笑む。

クラスメイト達はその姿を固唾を飲んで見守る。何故ならまだここは寮の中なのである。


「じゃあ行ってきます」


みょうじさんが照れ臭そうに皆に手を振る。
轟くんは僕と飯田くんに一瞬目をくれて頷く。
僕たちも頑張れ!と気持ちを込めて頷いた。








緑谷たちと選んだテーマパークには、電車に揺られ乗り継いでやって来た。


「わあ…私、初めて来たよ!」
「俺もだ。行くか」
「うん!」


みょうじと手を繋いで早速中に入る。

すぐ目の前に花畑。

みょうじが綺麗だね!とニコニコ笑いながらはしゃぐ。
花畑の真ん中に鐘があり、みょうじがそれを指差してあそこで写真を撮ろうと提案する。
あまり写真を撮らない俺だが、みょうじがとても嬉しそうにするものだから微笑ましくなって頷いた。

スマホを取り出して、みょうじが腕を伸ばして俺とくっつく。

「…俺が撮る」

腕、俺の方が長いしな。
みょうじは少し屈辱と笑うと俺にスマホを渡す。

二人スマホに視線を戻して何回かシャッターボタンを押してると、近くを通りかかった家族連れが撮ってくれると言うので言葉に甘えて撮ってもらい、代わりに俺たちも家族の写真を撮ってやり別れた。


それから俺たちはテーマパークを遊んで回った。
パターゴルフや釣り、アーチェリー何かをやり、何をやってもみょうじは俺に「すごい!轟くんは何でも出来るんだね!」と楽しそうに笑う。



少し休憩して、動物と触れ合える場所に行くと今度はみょうじが動物に囲まれて幸せそうにしていた。

「もふもふだねぇ」
「…すげぇな」

餌を持ってるとは言え、ヤギやヒツジに囲まれたみょうじは嬉しそうな顔をしていたので、俺は思わずスマホのカメラをみょうじに向けシャッターを押す。
スマホ内に保存された写真たちを見て微笑む。

しばらくして餌をやり終えたみょうじと動物コーナーを後にすると、遊園地に向かう。
そこでしばらくみょうじに付き合っているといつの間にか暗くなって来て、園内に照明が灯る。



「うわぁ…!」



隣に立っていたみょうじから感嘆の声が漏れる。
夜になると、イルミネーションが始まる。
国内でもイルミネーションがそれなりに有名な場所らしく、今日はこれを見せたくて連れてきた。


「すごい!綺麗…」
「ああ」


イルミネーションに見入り、その光に照らされたみょうじの横顔を盗み見る。
ああ、幸せだな。なんて微笑んでいると俺の視線に気付いたみょうじが少し照れ臭そうに俺を見上げた。


俺は吸い寄せられるようにみょうじの頬に手を触れ、唇を近付ける。
みょうじは少し驚きながらも、ゆっくりと瞳を閉じる。

温かく柔らかい感触。
離れたくないな。
そう思いながらもゆっくりと唇を離す。

みょうじは頬を赤く染め、唇に手を触れる。
その仕草がやけに色っぽくてぞくりとする。


「…今日は、ありがとう楽しかった…、焦凍くん」
「俺も楽しかった。なまえ」


そろそろ帰らないと寮の門限に間に合わなくなる。
名残惜しいが、俺たちは手を繋ぎ直してテーマパークを後にする。


帰りの電車内で、今日のプランは実は緑谷と飯田と考えたんだと告げると、みょうじはそっかと笑った。


「轟くん、良い友達を持ったよね。今日は本当に楽しかったもん。二人にも感謝しなくちゃ!」


嬉しそうに俺の手を握る暖かい手。
みょうじはどうしてこんなにも優しいのだろう。


「…そうだな」


俺もつられて笑い、その暖かい手に僅かな力を込める。
それに反応するように、みょうじの手にも少しだけ力が込められた。



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