好きです。
言わなければよかった。
ぽたり、と涙がこぼれ落ちた。
告白した時の事を、今も鮮明に思い出せる。
普段からあまり変わることのない彼の表情が、少し困って見えた。
彼はポツリと、「悪い。」と言って。
私から気まずそうに視線を逸らした。
知ってた。
分かってた。
でも、気持ちが溢れて、止まらなかった。
ーーー春。
裏庭に委員会で私が担当している花壇があって、彼…轟くんはよく昼休みになると近くのベンチに座っていた。
初めのうちは特に気にもしていなかったが、よく来るので何となく花は好きですか、と聞いたのが始まりだった。
「特に好きでも嫌いでもねェ。」
轟くんはそう言ったっけ。
ちょっと近寄りがたい雰囲気の人だな、なんてその時は思った。
それからしばらく会うたび会釈したり、一言二言会話したりするようになった。
体育祭が終わった後、彼はいつものように裏庭にやってきて、私に言った。
「母親が入院してるんだが…見舞いに持ってく花、何が良いかわからねぇ。」
「よかったら…一緒に選ぼうか?」
いいのか?と驚いた顔で言った。
「いつも暇だから大丈夫だよ」
こうして休日、彼と花を選びに行くことになった。
午前中から待ち合わせをして、彼のお母さんへのお花を選んだ。
お母さんの雰囲気をある程度聞いて、可愛らしいというよりも白や淡い色をメインにした綺麗な花束にしてもらった。
彼のイメージに合わせると、その白と赤の髪の色から赤いお花を入れても良かったかな、なんて思ったけれど轟くんは私が選んだ花を気に入ってくれたらしく、お店の人が少しアレンジを加えて更に素敵になった花束を、いつもより柔らかい表情で見つめていた。
私はその時、恋に落ちたのだ。
それからしばらく轟くんは裏庭には来なかった。
そして秋を迎え、秋桜の花が咲いた。
それでも彼は来なかった。
冬の間は何を育てよう。
もしかしたら今日は来てくれるかもしれない。
そんなことを思いながら毎日裏庭の花壇で土いじりをした。
もうすぐ冬が来る。
そんな時、彼は久しぶりに現れた。
たった一回、一緒にお花を選んだだけの普通科の私と、毎日忙しい未来を約束されたヒーロー科の彼。
久しぶりに、この場所に来てくれたことが嬉しくて。
久しぶりに、彼の顔が見れたことが、彼と話ができたことが幸せで。
「あの…轟くん」
「なんだ?みょうじ」
彼がここへ来なかった間、きっと私には計り知れない程色んなことがあったんだろう。
彼が前よりも随分柔らかくなった表情で、私の名前を呼んだ。
だから心臓が締め付けられるように少し息苦しくて、
でもじんわりと、熱くて。
私は、私の中で溢れて溢れてどうしようもない言葉を、
口にした。
花と一緒に、散っていく