それは俺がまだ仮免補習に通っている時のこと。



いつものようにヒーロー基礎学が終わり、更衣室で着替えていると、男子たちの下世話な話が始まった。
しかしそれはいつもとは少し違っていて、内容はクラスの誰が一番可愛いと思うか、という話になった。

そして誰かがみょうじの名前を出すと、今度は何故かみょうじの話題で持ちきりになった。


「みょうじかあー、確かに可愛いよな。うちのクラス皆レベルたけーけどさ!」


上鳴がうんうんと頷く。
切島もおうと返事を返す。


「こないださあ、コンビニで売ってた限定ジュース飲んでたわけよ?そしたらみょうじが来てさ、一口ちょうだいっつって。間接チューよ間接チュー!」


上鳴の言葉に男子たちがマジかよ!と興奮気味に騒ぐ。


「俺は教室で英語のわかんねーとこやってたら、みょうじが教えてくれたんだけどよ…なんつーか距離が近い?良い匂いしたし…髪を耳にかける仕草が色っぽいっつーか…たまに距離近すぎて目のやり場に困るよな!」


切島が照れながらそういうと、今度は緑谷が距離が近いと言えば…と切り出す。


「僕、ヒーローズチップスのカード集めてるんだけど…その話したらこの間みょうじさんが限定キラカードのオールマイト当たったって僕にくれて…代わりに別のカードと交換しようって言ったら距離が近くて困ったなあ…」


他の奴らも、各々みょうじとの出来事を語っていく。
どれも優しくしてくれただのあの時可愛かっただの話しているが、口田の部屋に兎を見に行ったことと砂藤の部屋で一緒にマフィンを作ったことはさすがにみょうじの危機管理を疑った。
男の部屋に入るなんて何考えてるんだあいつは。

というか他の奴らには色々あんのに俺とは何もないとか少し落ち込んだ。
仮免取る前にさっさと告白しねーとやばいんじゃねえか…?







「よお!轟!元気ッスか!?」


補講の日、夜嵐が気安く話しかけてくる。
こいつには悪いことをしたと思っているから無碍には出来ない。
蕎麦よりうどん派らしかったり、話をすればするほど合わねえなと思うこともあるが、まあ悪い奴ではないので合えばこうして話をするようになった。


「そういや疑問なんスけど…仮免の時に轟を庇ってた女の子いたじゃないッスか」
「… みょうじのことか?」
「多分そうッス!青みがかった黒髪ロングの!」


お前もみょうじの話か。


「で、みょうじが何だ?」
「轟の彼女ッスか?」


思わず身体が固まった。
それを見ていた夜嵐がン?と首を傾げる。


「…違え」


夜嵐は意外そうに俺を見た。

「へーえ、あんだけ庇ったりわざわざ俺に轟は良い奴だとか言ってきたりしたから俺はてっきり…違うんスか!」
「ああ」


さっさと告白して独り占めしてえとこだが俺はまだ仮免すら取れてねえ。


「てめェらイチャイチャうぜーんだよくっつくならはよくっつけや」


後ろで話を聞いてた爆豪が、イラついた様子でそう言い俺と夜嵐を追い越して行った。
俺は少しムッとして、爆豪を追いかける。


「そうもいかねえ。俺はまだアイツの横に立てる資格がねえ。まずは仮免を取ってから…」
「そういうのがうぜーんだよ!好きならさっさと言やいいだろうが!ウジウジウジウジ理由探してんじゃねーよ」
「…俺はそう決めただけだ」
「けっ」
「まあまあ、いいじゃないッスか!」
「あれー?喧嘩?マジ驚愕ー」


俺はここでとりあえずみょうじの話はやめておいた。
爆豪と話しても仕方がない。いつまでも平行線になるだけだ。
俺は自分が決めたことを信じてやるだけだ。


みょうじのことは気になるが、今はとりあえず補講に集中しよう。



轟焦凍の焦燥
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