「フヘエエエ毎日大変だァ…」
三奈ちゃんが身体をソファに埋める。
皆のその表情は少しお疲れ気味だった。
無理もない。
圧縮訓練とは名ばかりではなく、本当に圧縮されているようで必殺技を作り出す為の個性を伸ばしたり、基礎トレやら何やら色々朝から晩で動きっぱなしなのである。
「ヤオモモは必殺技どう?」
「うーん、やりたいことはあるのですがまだ体が追いつかないので…少しでも個性を伸ばす必要がありますわ」
「梅雨ちゃんは?」
「私はよりカエルらしい技が完成しつつあるわ」
二人の必殺技かあ、どんなのかなあと想像していると、なまえちゃんは?と話が振られた。
「私も完成して来てるよ!もう少し色々試したいことあるけど…」
「そっかあ、お茶子ちゃんは?」
お茶子ちゃんは紙パックのジュースを飲みながらボーッとしている。
皆少し首を傾げ、梅雨ちゃんがお茶子ちゃん?と声をかけるとびくっとしてジュースを吹き出しそうになっていた。
「だ、大丈夫?お茶子ちゃん」
「お疲れのようね」
「いやいやいや!疲れてなんかいられへん!まだこっから……のハズなんだけど…何だろうねえ、最近ムダに心がざわつくんが多くてねえ」
あ、それ私も…と思った時、三奈ちゃんから意外な言葉が出た。
「恋だ!」
「な、何!?故意!?知らん知らん!」
慌てて手を振るお茶子ちゃん。
その反応を見た女子たちはきゃあっと黄色い悲鳴を上げる。
「緑谷か飯田!?一緒にいること多いよねえ!」
「チャウワチャウワ」
「誰ー!?どっち!?誰なのー!?」
「ゲロっちまいな?自白した方が罪軽くなるんだよ」
チャウワチャウワと思わず個性で浮かんでしまうお茶子ちゃん。
「あの…ねえ、それって……やっぱり恋、なの?」
私は膝の上の拳をギュッと握り締めて俯きながら皆に質問する。
皆の騒いでた声が一瞬止まる。
「一人の人のことを思ってそうなるなら、それは恋なんじゃないかな?!」
透ちゃんがそういうと、三奈ちゃんもうんうんと頷く。
「……!」
一人の人。
轟くんの顔が脳裏に過ぎると、ぼわ、と顔に熱が集まる。
それを見た女子たちがえ、と声を漏らした後にこっちも恋!?と先ほどより大きな黄色い声。
「えーっ誰?!」
「誰誰!?」
「もしかして…轟?」
響香ちゃんの声に、びくりと身体が反応する。
汗がだらだらと垂れて来て、身体中が熱くなっていく。
「…う」
「無理に詮索するのはよくないわ」
「ええ、それより明日も早いですしもうオヤスミしましょう」
梅雨ちゃんと百ちゃんが助け舟を出してくれる。
内心少しホッとする。
未だに浮かんでるお茶子ちゃんも少し安心した顔になる。
「ええーーーっ!!やだー!もっと聞きたい!何でもない話でも恋愛に結び付けたいー!」
「そんなんじゃ…」
とふよふよ浮いていたお茶子ちゃんが、窓の外を見るとハッとして頬を赤く染める。
釣られて見ると、寮の前で自主練に励む緑谷くんがいた。
お茶子ちゃんの好きな人、気付いてしまった。
そして皆が自室に戻っていく中、お茶子ちゃんを呼び止める。
「お茶子ちゃん」
「どしたん?なまえちゃん」
「あ、あのね…さっきの話なんだけど」
うん?とお茶子ちゃんが首を傾げた。
「私も最近心がざわついて…」
「なまえちゃんも!?」
「うん…轟くんが笑うとどうしても心がそわそわしてね、他の子と喋ってたりすると…何だかなあって…」
「それ…分かる!分かるよなまえちゃん!」
お茶子ちゃんが私の手を取って、そっか、なまえちゃん轟くんが好きなんやね、と笑う。
「お茶子ちゃんの好きな人気付いちゃったから、私も言わないとって思って」
「えっ!?」
お茶子ちゃんが顔を赤くする。
その耳元にこっそりと緑谷くんの名前を出すと、ぼふんと煙を上げてさらに顔を真っ赤にする。
「二人の内緒、ね!」
「…うん」
顔の赤い二人で、小さく頷き合った。
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74 心浮かぶ