轟家での生活も慣れた頃。
雄英高校から全寮制のプリントが届いた。

そして私にも例外なく、寮に入るための説明をする"家庭訪問"が行われた。
ただし私の場合は家ではなく祖父のいる総合病院の応接室。



「好きにして下さい。私には関係のないことですので」


お祖父さんが眉を顰めて何度も腕時計を確認する。
目の前に座る相澤先生がぴくりと眉毛を動かす。


「…こう言っては何ですが…孫娘が拐われ、被害に遭い…全寮制にすると言われそんな簡単に頷いても良いのですか?」
「先程言った通りです。そちらに全てお任せします。私には関係のないことです。もういいかな?」


お祖父さんは立ち上がってふんと鼻を鳴らし、応接室を出て行った。
完全にドアが閉まったことを確認してから、私は大きくため息をついて相澤先生にぺこりとお辞儀する。


「すみません、先生…わざわざ来てもらったのにあんな態度で…」
「いや…話には聞いてたが…キツイもんだな。お前にはいつもあんな態度なのか?」
「いえ、もっとキツイです。今日は柔らかい方でした」
「そうか…まあ、とりあえず賛成してもらえた。お前も休み明けには寮暮らしだ。準備をしておくように」
「はい」


先生と共に応接室を出て、先生を見送った。
しばらく空いた長椅子に座っていると、見慣れた紅白頭が近づいて来た。


「轟くん…」
「家庭訪問、終わったか」
「うん」


そうか、と呟いて轟くんと歩き出す。
轟くんは私と一緒にこの病院に来ていた。

私が家庭訪問を行っている間、お母さんのお見舞いに行っていた。
私も時間になるまで轟くんのお母さんに会い、お話をしていた。
今は家にお邪魔していることを話すとニコニコと静かに聞いてくれていた。

それから私は用事があると先に病室を出て応接室に向かい、後から轟くんとここで待ち合わせすることにしていたのだ。


「寮には入れそうか?」
「うん、予想通り好きにしろって」
「…そうか」


轟くんは少し心配そうな顔で私を見た。
私は大丈夫だよの意味を込めて笑って見せる。

電車に乗り込んで、轟家へ向かう。
こうして轟くんの家で過ごすのもあと少しかあ。
そう思うと少し寂しく思う。







二人で家に帰ると、冬美さんがご飯の準備をしていた。
私もお手伝いします、と笑って横に立つ。
すぐに手を洗って冬美さんと一緒にご飯を作っていると、本当のお姉さんと錯覚してしまいそうになる。

そして全ての料理を作り終えて、ちゃぶ台に出来上がった料理を並べていく。


「美味そうだな」
「えへへ、かぼちゃの煮物は私が作ったんだよ」
「へぇ…」


ひょい、と小鉢からほくほくのかぼちゃの煮物を摘んでぱくりと食べる。


「ん、美味え」
「こら焦凍、お行儀悪いよ!」
「…つい。」


もう、とご飯とお味噌汁をお盆に乗せて持ってきた冬美さんが苦笑混じりにため息をついた。


「さ、食べましょうか」
「いただきます」


皆で手を合わせ、冬美さんと私も少しお手伝いしたご飯に舌鼓を打つ。
相変わらず冬美さんは料理が上手だ。


「なまえちゃん、寮の許可は取れた?」
「はい、バッチリです」
「そっかぁ、良かったね、と言いたいところだけどやっぱり家から焦凍もなまえちゃんも居なくなると思うと寂しいなあ…」
「私もです…」
「また来ればいい。休みの日にでも」
「そうね…」


少し寂しそうだった冬美さんがいつでも遊びに来ていいからねと笑う。
私もはいと答えるように笑った。


「…嫁に来るか、みょうじ」


轟くんがいつもの表情で、日常的な会話でもするかのように言うので、私は危うく聞き流すところだった。
しばらく考えて沈黙の後、私の頭が沸騰しそうになって目の前がくらくらして全身が熱くなった。
ドッドッドッと心臓の音が高鳴ってうるさい。


「し、焦凍!?急にそんなこと言ったら…なまえちゃんびっくりしてるじゃない」
「そうか、悪い」
「えっと… なまえちゃん、大丈夫?」
「は、ははははい、大丈夫です、驚いちゃっただけで…あはは、轟く…焦凍くんったら冗談が上手なんだから」
「冗談じゃ…」
「あーっ!焦凍!ご飯おかわりいる!?」
「…いらねえ」


少し不服そうな顔した轟くんが、残りのご飯と味噌汁を流し込むとご馳走様と言ってそそくさと席を立って行ってしまった。
それを見た冬美さんがあわあわとしていたが、轟くんの背中の見えなくなるとはあとため息をついた。


「不器用なんだから…ごめんね、なまえちゃん」
「い、いえ…」
「焦凍、あんまり話が上手い方じゃないから…それでもあの子とこれからも仲良くしてくれると嬉しいわ」
「それは、もちろんです」


良かった、と苦笑気味な冬美さん。
私は残りのご飯を口に運ぶが、味なんて分からなくなってしまっていた。



69 家庭訪問
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