シャワーをお借りして、お風呂場から脱衣所に出ると新品の着替えが用意されていた。
準備は出来てるってそういうことなのか…。

着替えて脱衣所を出ると、冬美さんがやって来る。

「サイズどう?…うん、やっぱりピッタリね」


私の格好を頭からつま先まで眺めるとにこと笑う。

「髪濡れたままよ?風邪引いちゃうわ」

冬美さんは肩にかけていたタオルで私の頭を拭いてくれる。

「わ、わあっ、大丈夫です、自分で出来ます!」
「だーめ、ふふ、本当に妹が出来たみたい。なまえちゃんがお嫁さんに来てくれたらいいのに」
「おっおっ、およめ、さんっ!?」


それってつまり、轟くんと結婚ってことだよね!?
想像しただけでぷしゅうと私から湯気が出るほど体温が上昇する。


「ドライヤーで乾かしましょー」

冬美さんが私の背中を押して脱衣所に入って髪をドライヤーで乾かしてくれた。
何という高待遇なのだろう。
可愛がってくれることは少しくすぐったいが、素直に嬉しい。

しばらく私の髪にドライヤーを当てると、ドライヤーのスイッチを切る。


「さ、お腹すいたでしょ?ご飯にしましょうか」


居間に行くと、轟くんが座ってスマホを弄っていた。
私に気がつくとスマホをしまって先ほどの冬美さんと同じように頭からつま先まで眺める。


「轟くん?」
「いや、似合ってるなその服も」
「私が選んだの、なまえちゃんに似合うと思って」
「そうか」

轟くん、さらりと似合うとか言っちゃうから心臓が持たない。

ちゃぶ台にいつの間にかご飯が用意されていて、私は座るように促される。
何の手伝いもできなかったことに少し申し訳なく思いながら、皆で冬美さんお手製のご飯を頂く。


「美味しいです…!」
「本当?口にあって良かったわ」
「今度作り方教えてもらえますか?」
「うん、いいわよ。一緒に作ろうね」


そんな様子をもぐもぐとご飯を食べていた轟くんがごくんと飲み込むと、姉妹みてえだな、と一言言う。
私は少し照れ臭くて縮こまった。







「みょうじ」
「は、はい」

ご飯を食べ終えると、みょうじと二人で座って茶を啜る。
姉さんが選んだ服に身を包み、俺の家にちょこんと座るみょうじ。何だか夢のようだ。

まるでみょうじがうちに嫁にでも来たようで、少し浮かれている。
姉さんも嬉しそうにみょうじに構っている。
着替えや部屋着、パジャマや歯ブラシなど全部いつの間にか揃えていた姉さんには俺も少し驚いた。


「さっき言おうと思ってたんだが…」
「うん?」


青みがかった長い黒髪が、肩口からさらりと流れる。
ごく、と固唾を飲む。


「この家、皆"轟"なんだ」
「え?…うん、そうだね?」

だから…

「名前で呼んでくれねえか、前に俺の母親と会った時は呼んでくれただろ」
「あっ!あれは…」


顔を赤くして、みょうじは視線を右往左往に彷徨わせる。


「駄目か?」
「いや…駄目っていうわけでは…その、急に呼び方変えるのは恥ずかしいから…」
「そうか…そうだよな」
「あの、でも…この家にいる間は…が、頑張る…」


赤い顔のまま俯いて、もじもじとしながら額に汗をかいている。
そんな様子すら愛おしくて、俺はうん、と頬杖ついてみょうじを眺める。


叶うなら。
ずっとこうしていたいと思ってしまうほど。



68 非日常
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