私たちは何とか逃げられて、駅前へと走って来た。
緑谷くんは轟くんと連絡を取り合っているようだった。


「良かった…私たちがあそこにいたことでオールマイトが戦いづらそうだったから…」
「… 」


爆豪くんが私を見てチッと舌打ちした。
何故だ。


それから私たちは駅前に取り付けられた大型テレビでオールマイトがオール・フォー・ワンと呼んでいた人物と戦っている様子を見ていた。

その戦いは本当に壮絶な物だった。
目で追うのもやっとな速さと、攻撃の強さで土煙が発生するので見辛い映像だけど、それだけでその戦いがどれ程異次元のものかが分かる。


そして…いつの間にか、オールマイトが萎んでいた。


それを見たとき、私の頭の中で欠けていたパズルのピースが埋まるような感覚に陥った。

ヒーロー基礎学の終了時にいつもすぐに帰って行ってしまうのも。
USJでの緑谷くんが"僕だけが知ってる"と言い、オールマイトの前に飛び出して行ったこと。オールマイトに目をかけられていると言う轟くんの発言と、オールマイトと似た個性の緑谷くん。


何かあると思っていた。


緑谷くんはオールマイトの何なんだ…?
家族…ではなさそうに見える…じゃあ一体…いや、考えるのはよそう。無駄に顔を突っ込むのはよくない。



そしてオールマイトは勝利した。
ボロボロになり、身体は萎みかけ立っているのもやっとに見えるオールマイトに、私は涙が止まらなかった。


「次は、君だ」


オールマイトの言葉。
緑谷くんはその言葉を聞いて更に泣き出した。
その言葉は緑谷くんに向けられたもののように感じた。


私の考えが正しければ…いや、まさかそんなコミックのようなこと…ありえない。






そしてその後、轟くんと百ちゃんも合流した。
百ちゃんは無事で良かったですわ、と私の手を握って喜んでくれた。
助けに来てくれてありがとう、と手を握り返して微笑むと、百ちゃんはぐっと何かを堪えたような表情になってから少し涙目ではいと言ってくれた。


それを見届けてから轟くんは私の側までやって来た。

「みょうじ」
「とどろきく、」

彼がすっと私を抱きしめる。
思ったより分厚い胸板に頬がぶつかって、目の前がチカチカした。
ふわりと彼の優しい匂いがしてきて、安心するようなざわつくような胸元をギュッと抑える。


「無事で良かった」


耳元で辛そうに囁く。
私を抱きしめる手に力が込められる。


「ごめん、ごめんね…轟くん…」
「俺こそ…悪ィ、お前を守ってやれなかった」
「そんなことない…皆私を助けに来てくれた。それだけで…」
「みょうじ」


私の声を遮った轟くん。
私から身体を離して、私の目を真っ直ぐ見つめる。


「…次は、守らせてくれ」
「え…?」
「守ってもらってばかりじゃ、格好悪ィ」
「そんな…轟くんは格好良いよ」
「…」


決まりの悪そうな顔をした轟くんが、頭をかいた。


それから私と爆豪くんは警察に引き渡された。
敵について色々なことを聞かれ、それに答える。
爆豪くんは思ったより静かな口調で答えていた。
けれど爆豪くんはオールマイトのあの戦いから何か少し上の空気味だ。

オールマイトのあの衝撃的な姿、そして平和の象徴の消失…。

無理もない、か。




そして私たちの事情聴取が終わり、警察署の外へ出てきた。
警官の人たちからは家族が迎えに来てくれると説明があった。

「え、あの…私のこと連絡したんですか?」
「あ…ああ…でもその」


言いにくそうにしている警官の人たちに逆に申し訳なく思う。
恐らくあのお祖父さんのことだから、どうでも良い一人で帰らせろとか言ったんだろうなと思うと少し切なく思った。


「あ?てめェは迎えに来ねえのかよ」
「あ…うん、あはは…家の人忙しいから」
「忙しいって…」


家族が拐われたっていうのに忙しいから迎えに来ない家族って何だよ、と言いたそうな顔をされてしまった。
爆豪くんは私の家の事情を知らない。


「みょうじ」
「え、あ、はい」


呼び方が"ガラス女"から変わっただけで少しそわそわしてしまう。


「お前さえ良けりゃ…」
「みょうじ」


爆豪くんの声を遮って、今ここにいるはずのない私の名前を呼ぶ声がすうっと私の耳に届いてきて、とくんと心臓の音が跳ねた。


「と、どろき…くん?」
「何でいんだァ?半分野郎」
「みょうじのこと迎えにきた。帰りのことを警察に聞いたら家族に迎えにきてもらうって言ってたからな。みょうじ一人じゃ危ねぇだろ」


轟くんの服装は昨日と変わっていて、一度家に帰っているのだとすぐにわかった。


「轟くん…え、と」
「タクシー待たせてある。行くぞ」
「あ」


轟くんが私の腕を引く。
そのまま轟くんに引っ張られるように足を半ばもつれさせながら歩き出す。

途中で振り返ると、眉を物凄く顰めた爆豪くんが轟くんを睨んでいた。


「爆豪くん!ありがとね!」


そう叫んで笑顔で手を振る。
爆豪くんはけっと言って視線を逸らした。



66 平和の象徴
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