やばい、頭ふらふらする。
ハンマーでぶっ叩き続けて腕痛い。
ガラスを作りすぎたせいで体力の低下が著しい。
正直立ってるのもやっとだ。
「やーーっと来たにゃん。とりあえずお昼は抜くまでもなかったねえ」
クラスメイト全員、疲れ切って瀕死寸前だ。
「何が3時間ですか…」
「腹減った…死ぬ」
「悪いね、アレ私たちならって意味」
実力差半端ない…
さすがベテランだ。
「でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった。いいよ君ら…特にそこの5人」
私を含めた最初に魔獣に突っ込んでいった5人を指差す。
「躊躇の無さは経験値によるものかしらん?三年後が、楽しみ!ツバつけとこー!!」
私はさっと逃げる。
男の子たちはツバをかけられている。
ツバかけるってそういうものだったっけ…。
「マンダレイ…あの人あんなでしたっけ」
「彼女焦ってるの適齢期的なアレで」
「適齢期といえば…」
緑谷くんの言葉にピクシーボブが反応する。
さっとまた顔面を掴まれている。
「ずっと気になってたんですがその子はどなたかのお子さんですか?」
私たちから少し距離を置いて立っている帽子をかぶった男の子。
全然気にしてなかったので、緑谷くんはよく気がつくなあと感心する。
「ああ、違うこの子は私の従甥だよ。洸汰!ホラ挨拶しな一週間一緒に過ごすんだから…」
緑谷くんが男の子に近付き、少し前屈みになり手を差し出し握手を求める。
「あ、えと僕、雄英高校ヒーロー科の緑谷よろしくね」
その瞬間、男の子が勢いよく緑谷くんの股間を殴る。
私は思わずひゃっと声を出す。
い、痛そう。女の子でも絶対痛いのに。
倒れそうになっている緑谷くんを、飯田くんが大丈夫かー!!と助ける。
「おのれ従甥!!何故緑谷くんの陰嚢を!!」
「だ、大丈夫…?緑谷くん…」
「う、う…うん…」
あ、絶対大丈夫じゃないなこれ。
とりあえず背中をさすってあげる。
意味があるかはわからないけど。
「ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえよ」
「つるむ!?いくつだ君!!」
洸汰くんはスタスタと行ってしまった。
「マセガキ」
「おまえに似てねえか?」
ふんと鼻で笑う爆豪くんに、轟くんがぼそっと言う。
私は思わずぷっと吹き出す。確かに!
「あ?似てねえよ。喋ってんじゃねぇぞ舐めプ野郎!!つーか、笑うんじゃねえクソガラス女ァ!!」
「わあ、ごめん!つい!」
「ついじゃねえ!!」
ごめんごめんと爆豪くんを宥めていると、相澤先生が「茶番はいいバスから荷物を降ろせ」と静かに怒られた。
「部屋に荷物運んだら食堂にて夕食、その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からださぁ早くしろ」
え、今日のこれが本格的スタートじゃないんですか、先生。ちょっとこっち見て答えてくださいねえ先生。
▽
「いただきます!」
先ほどの疲れは、美味しそうに湯気を立てるご飯を目の前にして少し和らぐ。
皆わいわい喋りながらご飯をがっついて食べる。
「美味しい!疲れたねえ。百ちゃん」
「ええ、本当に」
上品にご飯を、食べながら微笑む百ちゃん。
そうこうしているうちに目の前の料理がどんどん無くなるので急いで食べた。
▽
「おっきいお風呂きもちーい!!」
三奈ちゃんと駆け込むようにお風呂場に入ると、滑るから気をつけて、と梅雨ちゃんが心配してくれる。
ついつい、待ちに待ったお風呂で興奮してしまった。
何しろ汗と土まみれなのでご飯より先にお風呂に入りたかったのだ。
髪や身体を洗い、お湯で流して湯船に浸かる。
「ふぁあ〜染み渡るぅ〜」
「…発育良いねなまえも」
響香ちゃんが前を隠しながら私の横に来る。
「え?そう?百ちゃんと、比べたら…」
「く、比べないでくださいっ」
「…何か隣騒がしくない?」
「…そう?」
皆が何となくお喋りをやめる。
隣の音に集中する。
「壁とは越える為にある!!Puls ultra!!!」
峰田くんの声だ。
まさか覗きに来る気…?
木の衝立がガタガタと揺れている。
…明らかに登ってきてる。
すると、向こう側の壁の上にひょこりと洸汰くんが現れた。
「ヒーロー以前にヒトのあれこれから学び直せ」
そして峰田くんの手を払う。
クソガキぃぃいいという峰田くんの叫び声が聞こえた。
「やっぱり峰田ちゃんサイテーね」
「ありがと洸汰くーん!」
「ありがとーー!助かったよー!」
三奈ちゃんが親指立てて、私は洸汰くんに手を振った。
その瞬間、洸汰くんがぐらりと向こう側に倒れる。
「っ!?」
わー!大丈夫か!
という声が向かうから聞こえた。
私は慌てて壁の向こうに向かって叫ぶ。
「洸汰くん平気ー!?」
「あっ、みょうじさん!?」
「緑谷が受け止めたから大丈夫だぞー!」
ほっ、と胸を撫で下ろした。
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54 洸汰くん