休日、轟くんと駅前で待ち合わせ。
「この格好で…大丈夫だったかなあ」
白い半袖のワンピースに、パンプス。
乙女すぎない大人しめのデザインのものだけど、服装を判断してくれる人は残念ながら周りにいないので少し不安になる。
「悪い、待たせた」
「とっ、轟くん!」
轟くん、前にも私服を見たことはあるが…。
何だろう、今日は一段と格好良く見える。スタイルがいいからだろうか。
「…似合ってんな、服」
「!!」
ぼっ、と火でも出たかのように顔が急に熱くなる。
慌てて両頬を抑える。
「どうした?大丈夫か?」
「うっ、うん…行こう!」
また心臓がどくどくと…。
やだな、これ。何でこんなに居心地悪く感じるんだろう。
電車に揺られて少し歩いて、見慣れた病院に着く。
病院の中に入って思わず周りを見渡す。
祖父に会わないといいんだけど…。
「そういや、みょうじがここの院長の孫娘だってことは言ってねえ。言っておいた方が良かったか?」
「ううん、いいよ。変に気を遣われるのも嫌だし…」
「そうか」
轟くんは慣れた様子で受付で見舞いのことを伝えて病室へ向かう。
少し離れにある特別病室。
普段は名のあるヒーロー何かが入院する病室だ。
さすが轟家。
こんこん、と軽くノックして中に入る。
「お母さん…」
窓際に、白く綺麗な長い髪をした女性が座っていた。
轟くんの声に気付いてゆるりと振り返る。
そして優しく微笑んだ。
…あ、轟くんに似てる。
ハッとして慌てて頭を下げる。
「こ、こんにちは!初めましてとどろ…焦凍くんのクラスメイトのみょうじなまえです」
「こんにちは、焦凍の母の冷です。冬美と焦凍に聞いていた通り素敵な子ね」
「…!」
轟くんが少し照れ臭そうに笑う。
お母さんの前だとこんな表情するんだなあ。
「これ使え」
轟くんがパイプ椅子を渡してくれる。
ありがとうと受け取ってちょうどいい場所に置いて腰掛ける。
「お母さん、とみょうじ…何か飲むか?」
「焦凍が好きなの買ってきてくれる?」
分かった、みょうじは何が良い?と聞かれたので適当にオレンジジュースと答えた。
轟くんが病室に出ると、冷さんが私を見てまた優しく微笑む。
「貴方の話は焦凍からよく聞いてるのよ。いつもあの子の側にいてくれてありがとう」
「いえ、そんな!私なんて、と…焦凍くんに助けられることが多くて…」
「あの子も…貴方にたくさん助けられてるわ。敵の攻撃から庇って怪我したんでしょう?もう平気なの?」
「は、はい!全然平気です。跡も残りませんでしたし…」
冷さんは、話をすればするほど優しく轟くん想いの良い人だった。
轟くんが売店から戻ってくると、いろんな話をした。
冷さんはどんな話にもニコニコ嬉しそうに聞いてくれるので、話をする私も嬉しくなってしまった。
いつの間にかかなり時間が経っていたらしく、轟くんがそろそろと切り出す。
二人で座っていたパイプ椅子を片付けて、荷物を持って部屋の外へ向かう。
「なまえちゃん」
途中で、冷さんに呼び止められる。
はい?と振り向くと、冬美さんと同じように私の両手を温かい手で握ってくれた。
「今日はありがとう、楽しかったわ。…焦凍のこと、よろしくね」
「…!はいっ」
私は笑顔で答えた。
冷さんは優しく手を離して、私たちに手を振る。
そして、私と轟くんは病院を後にした。
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