「ん、ぅ…」

重い目蓋を開けると、いつの間にかもう明るかった。
そうか、気を失って病院に連れてこられたんだな、なんて頭は冷静に状況を判断する。
体を起こそうとすると、背中がぴきりと痛んだ。


「みょうじ!」


いつからいたのか、轟くんが病院着で私のベッド脇の椅子に腰掛けていた。
轟くんは不安と怒りがごちゃ混ぜになったような表情をしていて、思わず気圧される。


「轟くん…」
「馬鹿野郎…お前もう少し遅かったら…危なかったんだぞ」


轟くんが包帯を巻いた腕で、私を抱きしめた。
消毒液の匂いに混じって轟くんの匂いがして、落ち着くようなざわつくような不思議な感覚になる。
心臓がどくんどくんと大きく音を立てる。

私は驚いて、どうしていいかわからなくなる。


「ごめんなさい、思わず…」
「よかった…」


見ると私も右腕に包帯を巻かれていた。
胸あたりが圧迫されているのも恐らく肩から背中の傷を包帯で固定されているせいかもしれない。


「後遺症とかはないらしいから安心しろ」
「そっか…それより、ヒーロー殺しは?緑谷くんと飯田くんは?」


私がそう聞くと、いるぞ!と隣から飯田くんの声が聞こえて来た。


よく見ると、隣のベッドは飯田くんだった。
私の目の前のベッドには緑谷くんが起き上がっていて、何やら恥ずかしそうに顔を赤らめている。


「…?…!」


そういえば私、轟くんに抱きしめられたままだった!
慌てて轟くんを優しく押し除けて、距離を取る。
緑谷くんはあははと困った笑顔で私を見る。


「何か混んでてお前も同じ病室に入れられた」
「なるほど」
「ヒーロー殺しは何とか三人で倒したんだ。もう警察に受け渡したよ」


そっか、よかったと胸を撫で下ろす。
飯田くんが立ち上がり、みょうじくんと真面目な声で私を呼ぶ。


「二人には昨日言ったんだが…済まなかった。特に女性にこんな大怪我を負わせて…!本当に申し訳ない!!」


バッと頭を下げる。
飯田くん。昨日より晴れやかな顔になっている。


「気にしないで!私がやりたくてやったことだし、怪我も自分の不注意だし…飯田くんには何の落ち度もないんだから!それよりこれからも委員長として私を引っ張ってくれると嬉しいよ」


にこと笑う。
飯田くんもほっとした顔で大きく頷く。


「それにヒーロー目指してるだから怪我くらいするよ!今回の件は明らかに私の力不足だ!」


突然病室のドアががらりと開けられ、そこには知らないヒーロー二人と、キリサキジャックがいた。


「おお起きてるな怪我人共!」
「グラントリノ!」「マニュアルさん!」「キリサキジャック!」


キリサキジャックが私を見つけるといつもの鋭い目つきをさらに鋭くさせてパシッと私の頭を叩いた。


「みょうじ!テメェ俺の言いつけ破りやがって!帰ったら説教だ!説教!何時間も正座させて足腰立たなくさせてやろうかアア??」
「ごめんなさい!ごめんなさいキリサキジャック!!」


緑谷くんもお爺さんのヒーローに何やらお小言を言われている様子だった。


「その前に来客だぜ、保須警察署署長の面構犬嗣さんだ」


立ち上がろうとするとくらりと目の前が白くなった。
それを見た私に掛けたままで結構だワンと言ってくれた。…ワン。


「君たちがヒーロー殺しを仕留めた雄英生徒だワンね。ヒーロー殺しだが…火傷に骨折となかなかの重症で現在治療中だワン」
「!」
「資格未取得者が保護管理者の指示なく個性で危害を加えたこと、たとえ相手がヒーロー殺しであろうともこれは立派な規則違反だワン。君たち四名及びプロヒーロー、エンデヴァー・マニュアル・グラントリノ・キリサキジャックこの八名には厳正な処分が下されなければならない」


私のせいで…キリサキジャックが…?
私は思わずキリサキジャックを見つめる。
彼はケッと吐き捨てただけで何も言わなかった。


「待ってくださいよ」
「轟くん…」
「飯田が動いてなきゃネイティヴさんが殺されてた。緑谷が来なけりゃ二人が殺されてた。誰もヒーロー殺しの出現に気付いてなかったんですよ。規則守って見殺しにするべきだったって!?」


食ってかかる轟くんに、緑谷くんが止めに入る。


「結果オーライであれば規則などウヤムヤでいいと?」
「…人をっ…助けるのがヒーローの仕事だろ」
「そうですよ…守ってこそのヒーローです!なんて言われようと私は間違ったことはしていません!」


「だから…君たちは卵だまったく…良い教育してるワンね雄英も…」
「この犬…」

轟くんがたまりかねて面構署長に詰め寄る。
飯田くんがそれを止めようとするが、その前にグラントリノさんが間に割って入る。


「まぁ…話は最後まで聞け」
「以上が…警察としての意見。で、処分云々はあくまで"公表すれば"の話だワン」


…え?


「公表すれば世論は君らを誉め讃えるだろうが処罰は免れない一方で汚い話、公表しない場合ヒーロー殺しの火傷跡からエンデヴァーを功労者として、擁立してしまえるワン」


私たちの功績は残らず誰に知られることもない。数人の目撃者と私たちさえ黙っていれば握り潰せる案件だと。

そして私たちは全員、頭を下げた。



よろしくお願いします、と。



そして面構署長も頭を下げて平和を守ってくれてありがとうと言ってくれた。

私と轟くんは少し不服そうに、早く言ってくださいよと呟く。



思わぬ形で始まった路地裏の戦いは、こうして人知れず終わりを迎えた。
ただ…その影響もまた人知れず私たちを蝕んでいた。



46 目が覚めると
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